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平野レミに聞く!【後編】「一家4人」から「夫婦ふたり」、そして「ひとり自炊」に。でも、料理の楽しさは変わらないわ

前編のインタビューでは料理との出会い、家族との出会いについて語ってくれた平野レミさん。
後編では、「味望人=味を望むすべての人」として情報発信を続けているレミさんの元気の源について、話を聞いてみよう。
読めば誰もが元気になる、痛快インタビューだ!

前編記事はこちら→平野レミに聞く!【前編】料理は、五感でシアワセが伝わる最高の自己表現なのよ

平野レミ(ひらの・れみ)
料理愛好家、シャンソン歌手。主婦として家庭料理を作り続けた経験を生かし、「料理愛好家」として活躍。また、元気印の講演会、エッセイを通じて、明るく元気なライフスタイルを提案するほか、特産物を使った料理で全国の町おこしなどにも参加し、好評を得る。レミパンやジップロン(オリジナルのエプロン)などのキッチングッズの開発も行っている。著書50冊以上。
目次

和田さんが私に贈ってくれた、最高のプレゼント

“シェフ料理” ではなく“シュフ料理”をモットーにしているレミさんですが、ふたりの息子さんが大人になって独り立ちしてしまうと、張り合いを失うようなことはなかったですか?

レミ
久しぶりに実家を訪ねてきた息子が玄関で靴ひもを結びながら、「じゃあ、帰るね」って言ったときはさすがに寂しかったね。

あなたが帰ってくる家は、こっちのほうでしょ! て言いたくなっちゃった。

息子たちが家にいなくなって、「一家4人」から「夫婦ふたり」の生活になったのをきっかけに、食卓のテーブルは和田さんとのふたりサイズのものに変えたんです。

ある日、「お父さん、昔みたいにまた、ふたりきりになっちゃったね。子育てって、あっという間ね」と和田さんに話したら、こんなことを言われたの。
「レミにはまだ、やり残したことがあるよ」って。

やり残したこと……というと?

レミ
それは、歌をうたうこと。

和田さんが私の父に結婚の申し込みをしに行ったとき、「レミは歌が大好きだから、取りあげたりしないで、自由に歌わせてやってください」って、父に言われたんだって。

その場には私もいたはずなので、もし憶えていたら「そうだったわね」と言えたんだけど、ぜんぜん憶えてなくてね。歌より料理を選んだのは私のほうなのに、すっかり忘れてた。

でも、和田さんにとっては忘れられない言葉だったのね。お知り合いのミュージシャンやレコード会社に働きかけてできたのが、「私の旅」というアルバム。

和田さんはプロデューサーとしてシャンソンを中心に選曲したり、訳詞や作曲まで手掛けてくれたばかりか、「私のキッチン」というステキな歌を作ってくれました。

歌詞がそのまま私の料理のレシピになっていて、聞きながら料理を作れるんですよ。あれは和田さんが私に贈ってくれた、最高のプレゼントだったの。

息子は独り立ちしたけど、新しい出会いを授けてくれた

独立して家を離れた息子さんたちですが、それぞれ結婚されて、「義理の娘」を連れてきてくれたことはレミさんにとって、うれしい出来事だったのではないですか?

レミ
もちろんよ!

それより、ビックリしたのは、長男と次男の奥さん、ふたりとも「ウチのダンナは料理が上手で、味つけのセンスも抜群なんですよ」って言ってくれたこと。
実は私、息子たちに料理を手伝わせたり、教えた覚えはまったくないんです。

ただ、我が家のキッチンは和田さんが「家のなかで、レミがいちばん好きな場所に作っていいよ」と言ってくれたので、お庭で子どもたちが遊んでるのを見ながら料理ができる、家のまんなかに作ってもらったのね。

子どもたちには宿題も勉強部屋じゃなくてキッチンテーブルでやらせていたの。野菜をジャージャー洗う音とか、トントントントン刻む音とか、ジージー炒める音を聞かせるうち、音と匂いで料理のプロセスを吸収してくれていたのかな。

「門前の小僧、習わぬ経を読む」とは、このことですね?

レミ
でも、本当に驚かされたのは、次男の奥さんの明日香ちゃん。

私は知らなかったんだけど、結婚するまでは料理の経験がまったくなかったそうで、「キャベツとレタスは同じ野菜だと思ってました」と言われたときはビックリ。

そんな明日香ちゃんも、今は3人の子どものお母さんになって、食育インストラクターになるほど料理の腕をあげちゃったんだから二度目のビックリ。

「母は強し」ってことよね。
子どもの健康のため、子どもの「おいしい」っていう笑顔のためなら、お母さんは何だってできるんだから。お母さんパワーって、本当にすごいのよ!

和田さんとは毎日おしゃべりしてる。だから、いなくなった気がしないの

「出会い」があれば「別れ」があるのが人生の常ですが、レミさんは2019年10月7日、最愛の夫である和田誠さんとのお別れを経験していますね。レミさんにとって、どんな出来事でしたか?

レミ
夫婦で同じときに一緒に死ぬなんて、あんまりないことだからさ、どっちが先なのかって、考えなかったわけではないけど、和田さんが先だったという事実を突きつけられたときは、大きなショックを受けました。

夫が先に死ぬにしても、妻のほうが先に死ぬにしても、長年、連れ添った相手を失った人は地獄のような悲しみを味わうものなんですよ。それこそ、日本人がチョンマゲを結っていた時代から、ずっとね。

そう考えてみると、私が先に死んで、和田さんに悲しい想いをさせなかったのは、せめてものことだったのかもしれませんね。

だから、今の私は世間から言えば「未亡人」なんだけど、「味望人=味を望む人」の代表として、ますます料理に励む毎日を送っていこうと決意したの。

2020年の国勢調査によると、配偶者を亡くした人は日本国民の約9%にあたる約1000万人もいて、そのうち約80%を女性が占めるそうです。

レミ
私の友だちにも同じ境遇の人がたくさんいて、今度、みんなでヨーロッパ旅行をしようって計画しているの。

和田さんが亡くなって、4年半が経ちます。でも、最近思うのは、和田さんの存在は完全に消えたわけじゃないってこと。

朝起きると、おいしいお茶をいれて、和田さんの写真の前に置いて、おしゃべりしているから。「今日はテレビの仕事で出かけてくるからね」ってね。
和田さんとは47年間も生活をともにしてきたんだから、そうカンタンにいなくなるわけないじゃない。

今もキッチンには、和田さんが描いた絵やオブジェが、たくさん飾られているしね。


実は、『平野レミの自炊ごはん』(ダイヤモンド社)の最後に「装画 和田誠」というクレジットがあるのを見て驚いたんです。

レミ
でしょ? 和田さんのイラスト、本の中身には出てこないんだけど、意外なところに使われているの。ここでタネ明かしをすると……、答えは裏表紙。

表紙のカバーをはずすと、和田さんのイラストが出てくるという趣向なの。和田さんに両側からつつまれてる感じね(笑)。気づいてくれる人がいれば、うれしいなぁ。
和田さんはたくさんのイラストを残してくれたから、これからもずっと「夫婦共作」でやっていけるの。


「自分のため」の料理だから、自炊料理は自由で楽しい

「料理は『誰かのため』という気持ちが大切」というのはレミさんの持論ですが、『平野レミの自炊ごはん』を読むと、「味望人=味を望むすべての人」として、「自分のため」に料理をする自炊生活を大いに楽しんでいる様子が伝わってきます。ひとり自炊を楽しむコツは何でしょう?

レミ
あるお医者さんが言ってたの。「今日食べたものは、3カ月後の自分のカラダになる」って。ならば、私のカラダを元気でシアワセにするように管理できるのは、私しかいないじゃない。

まず気をつけなければいけないのは、人間のカラダにとって必要な五大栄養素(炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル)をバランスよく摂ること。
最近、ちょっとたんぱく質が足りないなと思えば納豆を食べたり、ビタミンが不足してるなと思えば野菜をその日のメニューに取り入れたり。

自炊って、「自分のため」にする料理だから、嫌いなものが出てこないというのがいちばんの魅力よね。

それから、お肉大好きなうちの家族にクチが酸っぱくなるほど言ってきた「野菜は肉の3倍食べて」っていうのも気をつけていることのひとつかな。

自炊のおもしろいところは、「自分のため」の料理だから、何でも自由にやっちゃっていいってところにあると思うのよね。

今日は忙しかったから、あまり料理をする時間がないなぁってときは、お皿に盛りつけしないで、立ったままで食べちゃったりする日もある(笑)。
でも、時間にたっぷり余裕があるときは、テーブルクロスを敷いて、大好きなワインやシャンパンを添えて、腕によりをかけて作った料理を味わうの。

音楽も料理のおいしさを引き立てる大事な要素のひとつ。最近はバッハの「ショコンヌ」がお気に入り。一曲のなかに、人間の喜怒哀楽のすべてが入っているから。

『平野レミの自炊ごはん』のある章では、「“味望人”こそ、お肉を食べましょ。」と薦められています。そういえば前編のインタビューで、和田誠さんとの結婚初日、レコードで「ウェディング・マーチ」を聴きながらステーキを食べたときの話をしてくれましたね?

レミ
和田さんは、お肉は牛肉が大好きで、サーロインステーキを焼いたときも、子どもたちが残した脂身を「お父さんにちょうだい」と言って、自分で取って食べるほどでした。

でも、健康のことを考えたら、鶏肉のほうがいいのよね。でも、私のベロは和田さんと同じだから、鶏肉はあんまり好きじゃない。ただ、自炊生活になってからは、おいしく食べられるような工夫をしようと思っています。

タイ料理にガパオライスというのがあって、前に食べたときにおいしいと思ったんだけど、今、細かく切った鶏肉に辛みとトロみをつけた、おいしい鶏肉料理を考えてる最中なの。

「家族のため」が「自分のため」に。
そして今は「みんなのため」に

そのほか、「自分のため」に気をつけていることは何ですか?

レミ
運動と睡眠、かなぁ?

まずは「運動」ね。ニンジン1本買いに行くときも、近場のスーパーで済ますんじゃなくて、安くておいしいのが売ってるところには散歩がてら、歩いて行ったりしてね。

この間も、知り合いの家で食事とシャンパンをご馳走になったあと、お天気もよくて気分もよかったから帰りは1万5000歩くらい、歩いて帰ってきちゃった。
そんなふうにしっかり運動した日は、ぐっすり眠れるのよね。運動と質のいい睡眠はセットになってるんだって、最近になってつくづく思う。

自炊を基本とする生活のなかで、ときどき外食するのも楽しみのひとつ。
外で食事をすると、これまで味わったことのない、新しい料理との出会いがあるからね。
それを私風にアレンジして、また新しいレシピのアイデアが浮かんだりするんです。

だから、これまでずっと続けてきたように、日々、新しい料理のアイデアを考えて、それを発信できている今の私は、とってもシアワセなのかもしれない。
だってそれは、私の料理が「自分のため」だけじゃなくて、「みんなのため」になっているんだから。

「味望人(みぼうじん)」というのは、「未亡人」と同じ意味なんじゃなくて、新入生や新社員生活を始める人たちを含めた、「味を望むすべての人」を指す言葉だと思っています。
ひとりぶんでも面倒なく、ちゃっちゃとカンタンにできる「味望人レシピ」をこれからもどんどん発信していくつもりです。よろしくね!

これからのレミさんの活躍を楽しみにしています。本日はどうも、ありがとうございます。

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取材・文=内藤孝宏(ボブ内藤)
撮影=八木虎造

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