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「マイブーム」は終わらない。エロスクラッパー・みうらじゅんの逆張り仕事術【後編】

前編のインタビューでは、「アウト老」としてはみ出し老人を目指す「老けづくり」活動を始めたきっかけなどについて語ってくれたみうらさん。
後編では、みうらさんの名を広く世間に知らしめた「マイブーム」の誕生秘話から、「一人電通」としてさまざまなブームを仕掛けたいきさつ、ライフワークとなった「エロスクラップ」について語っていただこう。

前編記事はこちら→「若づくり」はもう古い!アウト老・みうらじゅんが提唱する「老けづくり」の美学【前編】

みうらじゅん
1958年、京都市生まれ。1980年、武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。以来、エッセイスト、イラストレーターなどで活躍。1997年、自らの造語「マイブーム」が新語・流行語大賞を受賞。ほかにも「クソゲー」、「ゆるキャラ」などの命名者でもある。著書に『アイデン&ティティ』、『マイ仏教』、『見仏記』シリーズ(いとうせいこう氏との共著)、『「ない仕事」の作り方』(2021年本屋大賞「超発掘本!」に選出)、『通常は死ぬ前に処分したいと思うであろう100のモノ』など多数。
目次

「マイブーム」はこうして生まれ、勝手にひとり歩きしていった

みうらさんの代名詞、「マイブーム」が新語・流行語大賞にノミネートされたのは1997年のこと。生み出された日から換算すると、30年以上の月日が流れています。そもそもこの言葉が注目されたきっかけは、何だったのでしょう?

みうら
公の場で発したのは、昼の生テレビ番組『笑っていいとも!』のテレフォンショッキングに呼ばれたときです。話の流れで「マイブーム」と言ったら会場から笑いが起こったんですよ。

すると数日後、新聞に「『マイブーム』という言葉は今の時代のメインカルチャーに対する、サブカルチャー側からのカウンターパンチである」みたいなことをどこかの大学教授がお書きになった。それがたぶん、誤解の始まりだったと思いますね(笑)。

当時、発行された『現代用語の基礎知識1996年版』には、こんな風に説明されています。
「若者語の一つで、自分が密かに気に入ってること。『穴のあいた靴下を重ねてはくのがマイブームなのよね』などという。個人的な好みを“自分の中の流行”と言い換えるライフスタイル」と。

2008年には『広辞苑 第六版』にも収録語として採用され、その後、10年後の第七版の改訂では「みうらじゅんが考案」という一文が足されて、「個人名の掲載は故人に限る」という広辞苑ルールを破ったことでも話題になりました。

結局のところ、流行語というのは、世間の「誤解」から生まれていくものなんでしょ(笑)。

シベ超から老けづくりまで「一人電通」が仕掛ける誤解マーケティング

世間に「誤解」されることを前提とすると、ヒットは容易に生み出せないということになりませんか?

みうら
そもそもヒットするなんて、こちらは考えてませんからね。僕がやりたいことは、これまで世の中に「ない」と言われていたものを「ある」ものにすること。アイデア出しから企画会議、営業、接待、ときには自ら広告塔としてPR活動も一人でこなす活動を、「一人電通」と呼んでいます。

かつて、映画評論家の水野晴郎さんが1996年にマイク・ミズノ名義で『シベリア超特急』という映画を作りました。監督、原作、脚本、主演、製作、主題歌の作詞などをすべて一人で担当した、これこそ一人電通映画(笑)。公開当時、見に行きましてね、タイトルを『シベ超』にしたらどうかと、僕は当時連載していた複数の雑誌に書きまくったんです。

そうすると、Aという雑誌で僕が書いた『シベ超』の記事を読んだ人が、Bという雑誌で同じく僕が書いた『シベ超』の記事を読むことになる。その結果、「あれ? 今、『シベ超』って流行ってるの?」という「誤解」が生まれることになりますよね。

もう『シベ超』でよくないか?って、水野さんも最終的におっしゃった(笑)。マジ嬉しかったですよ。『シベ超』はその後、4本の映画と舞台公演につながる人気作品になりました。

そのほか、「一人電通」の事例としては、俳優の田口トモロヲさんとチャールズ・ブロンソンをひたすら推していく「ブロンソンズ」の活動や、大木こだま・ひびきさんや吉本新喜劇の『ギャグ100連発』の発案と制作に関わったり、奥村チヨさんを再評価する『コケティッシュ爆弾』というコンピレーションアルバムをプロデュースするなど、いろいろやってきました。

「一人電通」は、たった一人の弱小広告代理店でも、かなりの勝率でヒットを生み続けているんですね。

みうら
いや、世間的なヒットでは決してありませんよ(笑)。60歳の還暦を迎えてからの僕は「老いるショック」から「老けづくり」を経て、現在は「アウト老(ロー)」を提唱していますが、これにも「誤解」のテイストが加われば世間に広まっていく可能性もあると思いますがね。

AMAに、しびんに、男キッス──俺の体を通り過ぎていったブームたち

「一人電通」の手法を用いても、ヒットしなかったブームもあるんですか?

みうら
そりゃ、当然ありますよ。

その話で思い出すのは、後期のころの『タモリ倶楽部』。「ナイブーム」の検証という企画がありました。「ナイブーム」とは、スタッフが考えた言葉。文字通りヒットしなかったブームのことです(笑)。

例えば、番組ではこんなものが取り上げられましたね。

  • カニパンブーム/旅行代理店などが、冬の時期になると一斉に発行する「蟹のパンフレット」を集めるブーム
  • 地獄表ブーム/地獄のように本数の少ない時刻表を写真で撮影して集めるブーム
  • バックオブエイジーズブーム/「WHISPER」、「AMUSEMENT」など、意味のない英字が印刷された紙バックを集めるブーム
  • シンスブーム/設立年を示す「since」の文字が刻まれている街の看板や印刷物を記録、収集するブーム
  • AMAブーム/海女さんのフィギュアやグッズを集めて愛でるブーム
  • しびんブーム/世界中のさまざまな年代、形状のしびんを集めるブーム
  • 男キッスブーム/ノンケの男同士でキッスをしている映像を収集するブーム
  • テープカッターブーム/開通式や落成式などのテープカットの儀式に招かれたときのため、白手袋、リボン、ハサミなどのマイテープカッターグッズを収集するブーム

確かに、初めて聞くブームが多いですね。ちなみに、ブームの寿命ってあるんですか?

みうら
長くもって4、5年じゃないですかね(笑)。ただ、僕の仕事はあくまでサービス業ですから、「AMAをテーマにしゃべってください」と頼まれたら、賞味期限が切れてるネタでもしゃべりますよ。「もう飽きちゃったんです」なんて言って、みんなをがっかりさせたくないですからね。

841巻到達!まずは千貼りを目指します

ブームには終わりがありますが、「マイブーム」そのものの賞味期限は無限ですよね。もうひとつ、エロスクラップ(通称・エロスク)活動もみうらさんにとってはエンドレスのマイブームなのではないですか?

みうら
本当はこのインタビュー、これが聞きたかったんでしょ?(笑)。そうですね。今日(2025年5月12日)貼った段階で、841巻になりました。千摺り、ならぬ千貼りも夢ではない域に達しました。

還暦になったときは、500巻でした。14回目の「スライドショー」は横浜文化体育館で2DAYS開催だったんですが、1日目は会場の全フロアにエロスクの全ページ、カラーコピーに撮って広げたんですけど、そりゃ壮観でしたよ。

ある種の達成感のようなものがあって、「そろそろエロスクも引退かな」という気になったんですが、67歳になった今、さらに341巻も増えてる。もはや週刊誌ばりのハイペースです。

「エロ」はみうらさんにとって、永遠のテーマなんですね。

みうら
それ、千冊作ってから考えてみます(笑)。

「残す」から「見せる前提」に。進化し続けるエロスクラップ45年史

みうらさんのスクラップ癖は、いつごろから始まったんですか?

みうら
最初は、小学1年生のときに始めた怪獣のスクラップです。気に入った怪獣の写真を切り抜いて、スクラップブックに貼ってね。それが4冊。雑誌のままにしておくと、年末の大掃除のとき、「捨てていいか」を親に迫られてしまいますからね。だからスクラップは、モノを「残す」ための手段のひとつでした。

小学4年生のときからは、スクラップの対象が怪獣から仏像にシフトしましたが、そのスタイルはちっとも変わりませんでした。

スクラップの対象が「仏像」から「エロ」に移るのは、時間の問題だったでしょうね?

みうら
いや、すぐにはいけません。実家で暮らしている間は、その作業ができませんでした。

もちろん、友だちのいらなくなったエロ本を引き取って、貯めてはいました。当然、隠し持っていたんですが、それも何かの拍子で見つかってしまうと親に叱られてしまいますから。

誰にもはばからずにエロスクラッパー活動ができるようになったのは、東京でひとり暮らしを始めてからでした。

僕は大学3年生のとき、特殊漫画雑誌『ガロ』で漫画家デビューしましたが、実はエロスクラップデビューもそれと同じ時期なんです。

漫画家デビューとエロスクラップデビューが同じ時期であることに、何か意味はあるんですか?

みうら
怪獣、仏像、エロと、僕は絶えず読者を想定して製作してきましたから、漫画も同じです。要するに、いつも見せ前(見せる前提)で作ってるわけですよ(笑)。

エロスクの記念すべき1巻目は、当時住んでたアパートの下の階の友だちに貸したんです。そうなると、2巻目以降は、「いかにして彼に喜ばれるか」という編集方針を掲げて作っていくことになります。彼専属のエロソムリエになったわけです。

3巻目までは裏表紙に貸出表がついてましてね、借りた友だちはハンコを押して返却する、といった貸本システムでした。

小学生のときの怪獣スクラップ、仏像スクラップは「自分のため」のものだったと思うんですが、エロスクラップは「人のため」に作っていたんですね。

みうら
いや、貸し出しは初めてでしたけど(笑)、今でもそのスタンスは基本、変わっていません。もちろん、今や絶対に表に発表できない制作物ですが、自己満足じゃ終わりたくないんです。

アナログだからこそ伝わる紙とハサミの美学

素材となるエロ本は、どうやって仕入れているんですか?

みうら
2ヶ月に一度は神田のエロ本ショップに通って仕入れています。ところが最近の出版不況でしょ、中古エロ本もやたら高くって。

かつて1万円も払えばビニール袋が両手にふたつ、取っ手が指に食い込んで痛くなるくらいの量になったんですが、今では2万円近く払わないと、それと同じくらいの分量にならないんです。トランプ関税の余波を、エロ本で実感するとは夢にも思いませんでした(笑)。えっ、違います? エロは。

エロスクラップは、ハサミで切り貼りすることに意味があるので、デジタル化はできないわけですね?

みうら
言うまでもないことです。

僕はリリー・フランキーさんと20年もの間、週刊『SPA!』で「グラビアン魂」という連載を続けています。「オレたちが本当に見たいグラビアを作る」をコンセプトに、撮影用のエスキース(下絵)まで僕が描いて、理想のグラビアを作っているんです。

この間、そのご褒美として、熟女グラドルの沢地優佳さんの写真集をプロデュースさせてもらいました。

当然、編集者は「デジタルじゃダメですか?」って聞いてきたけど、「紙じゃなきゃ貼れないじゃないか」と突っぱねて(笑)、やっと実現した企画です。こちとら神対応ならぬ紙対応ですからね。

写真集のタイトルは『Venus,y』。ちょっとお値段は高いですが、今の時代には奇跡の一冊です。是非、見てくださいね。

念願の1000巻達成まで、あと159巻。エロスクラッパー活動は、まだまだ続くのでしょうか?

みうら
そのためには健康が第一です。がんばります(笑)。

最後の最後まで楽しいお話、どうもありがとうございました!

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取材・文/内藤孝宏(ボブ内藤)
撮影/八木虎造

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