かっこよい人

コロッケに聞く!【後編】僕を元気にしてくれる言葉、それは「相手が一番、自分は二番」

2023年3月、歴史あるお芝居の殿堂、明治座創業150周年記念前月祭、
『大逆転! 大江戸桜誉賑(かーにばる)』に出演するコロッケさん。

前編のインタビューでは、ものまねを始めるいきさつから今日に至るまでの活動について、じっくりと語っていただきましたが、後編では東日本大震災や熊本地震でのボランティア活動について、ものまね以外での俳優としての活動などについて、語っていただくことにしましょう。

前編記事はこちら→コロッケに聞く!【前編】苦しいとき、ツラいときに僕を支えた母の言葉、「あおいくま」

コロッケ
1980年8月、「お笑いスター誕生」(日本テレビ系)でデビュー。テレビ、ラジオなどに出演するかたわら、全国各地でのものまねコンサートを開催。また、東京・明治座、名古屋・御園座、大阪・新歌舞伎座、福岡・博多座などの大劇場での座長公演を定期的につとめる。2023年3月には明治座創業150周年記念前月祭『大逆転! 大江戸桜誉賑(かーにばる)』に出演する。
目次

大災害の惨状を知ったとき
何かをせずにいられなかった

以前、このサイトで山田邦子さんにインタビューしたとき、東日本大震災の話を聞きました。邦子さんによると、コロッケさんがいち早く行動したことに触発されて、ボランティア活動を始めたそうです。コロッケさんには、どんな思いがあったのでしょう?

コロッケ
よく質問されるんですけど、うまく説明できる言葉がないんです。

地震発生直後は、行動を起こそうにも人命救助や物資輸送を目的とした「緊急通行車両」の許可証がないと被災地には入れない状況でした。

でも、たまたま知り合いに山形で炊き出しの芋煮を輸送する許可を国からもらった人がいて、「お手伝いさせてください」ってお願いしたんです。
山形から福島を通って仙台に入って、支援の届いていない地域を探しながら宮城県石巻市にたどり着くまで、6~7時間ほどかかりました。

人がひとり乗れば、その分だけ運べる荷物は減ってしまう。だから、シートに座っている僕は、ヒザに食糧の入った箱を抱えていました。お手伝いを願い出たとき、「邪魔になるだけなら来ないでください」って、クギを刺されてもいました。

やはり、ものまねの力で被災地の人たちを励まそうという気持ちだったのですか?

コロッケ
いえ、そんな気持ちは1ミリもありませんでした。もし、そんな気持ちで被災地を訪ねていたとしたら、「帰れ」とはねつけられていたと思います。

自分のような人間が役にたつかどうかわからないけど、たまたま支援のお手伝いをする機会があるんだから、何でもやろう。そんな気持ちでした。

いちおう、念のために美川さんセットは持っていったんだけど、被災地の現状を見たら、使うことはないと、すぐに気づきました。震災から10日後、元気づけようなんて段階じゃなくて、困ってること、足りないものの支援をどれだけできるか、それだけを考えるしかありませんでした。

芋煮の炊きだしは、コンビニの横に建てたテントでやったんですけど、「準備ができました-」とメガホンで呼ぶと、30分で300~400人くらいの長~い行列ができました。

その列を整理しているとき、年配の女性に腕を引かれたんです。「ん?」とふり返ると「ものまねやってよ」と言われて。「こういうときなんで……」とお断りすると、「笑ってないのよ、ずっと」と言われたんです。
その言葉がズシンと重く響きました。それで、「誰がいいですか?」とリクエストしてもらうと、「森進一さんでしょ、五木ひろしさんでしょ、それから……」と次々と名前があがってね。
「そんなにやって、大丈夫ですか。怒られないですか」と聞いたら、「みんなも見たいと思う。喜ばせてあげて」という言葉に背中を押されて、メガホンで「おふくろさん」を歌わせてもらいました。
そのとき、沈んでいるように見えたみんなの顔がいっせいに明るくなって、ドッと笑いが起こりました。「こんなときに不謹慎だ!」と咎める人は、ひとりもいませんでした。

それどころか、僕のものまねを見ようと、うしろのほうに並んでた人が移動しようとして列が乱れてしまったので、「そっちにもいきまーす」と声をかけて移動しながらものまねをしました。

おそらく、地震が起こってから初めて笑ったという人がほとんどだったんでしょうね?

コロッケ
だからといって、こちらから「ものまねします」と言うことだけはしませんでした。

ただ、僕のほかにコージー冨田、ツートン青木、トニーヒロタの3人がいましたから、被災地を訪ねるときにはその場所の支援団体の班長さんに話を聞いて、「ものまねショーをやってほしい」と言われたときのみ、体育館や講堂などで1時間くらいのショーをやりました。もちろん、「うちはまだそんな雰囲気じゃない」と断られることもありました。

被災した人たち同士で話をすると、つらい思いと目の前の厳しい現実を突きつけられて、口が重くなってしまう。でも、ものまねショーで思いっきり笑ったあとは、みんな心を開いてつらいこと、不安なことを打ちあけてくれるんです。

だから、ショーのあとに一緒に写真を撮ったり、サインをしたりで3時間くらいかかります。そうなると、1日4カ所まわるのが精一杯。
ショーだけやって、次の場所に行けばもっと回数はこなせたはずだけど、それは違うと思った。ショーはおまけで、交流会が本番。そう思って被災地をまわりました。のべ1万人くらいの人には会えたんじゃないかな。

2016年に熊本地震が起こったときも、コロッケさんはボランティア活動をいち早く始めましたね?

コロッケ
被害に遭ったのが故郷の熊本だっただけに、行動しないという選択肢はあり得ませんでした。

心残りだったのは、地震から2年後の2018年4月14日に熊本・藤崎台球場で行われるはずだった「ソフトバンク×ロッテ」の追悼試合が雨で中止になってしまったこと。

僕はこの試合で始球式を投げる予定でした。
でも、お客さんはいっぱいに入ってるし、ガッカリさせたくない。そこで急遽、即席のものまねショーをマウンドの上でやらせてもらいました。アンコールを含め、20分以上。

試合中止のアナウンスがあって、ブーイングが湧くなかのグラウンドに出ていくのは、すごい勇気がいりました。
ただ、このときのお客さんは温かかったですね。
みんな僕のものまねを見て、笑ってくれました。
ものまねって、最初の1秒でワッと笑いがくるんです。笑いに瞬発力があるんですね。
ものまねパワーのすごさをあらためて感じました。


ものまねを封印しての俳優業は
大きな学びの場だった

ところで、ものまねはコロッケさんの最大の武器だと思うんですが、俳優としてドラマや映画、舞台に出演することもありますよね。このときはどういうスタンスで役に臨むんですか?

コロッケ
一時期、映画関係のスタッフやプロデューサーさんと会うと、「僕も俳優をやってみたいです。いつか使ってください」と言っていたんです。きっと、ものまねでは得られない経験ができるんじゃないかと思って。

でも、反応は意外ににぶくてね。ある人には「コロッケさんは役があったとしても、みんな『コロッケ』になっちゃうんですよ」と言われました。
そういうわけで、俳優業では思うような作品に出会う機会は、そう多くありませんでした。

ですから、2001~2002年まで、石坂浩二さんが黄門さまを演じた「水戸黄門」に素破の次郎坊という忍者役で出演できたのはとてもうれしかったし、2008年にはNHK大河ドラマ「篤姫」で太助というカメラマンの役をいただきました。

ただ、「篤姫」では台本を読んでいると、途中で「笑わない客を顔芸で笑わす」と書いてあって、「やっぱり求められているのは演技よりそっちか」と思いましたけど。

ですから、2018年公開の映画「ゆずりは」の主役のオファーが来たときは、最初はどっきりカメラかと思いましたよ。
しかも、葬儀社の営業部長役という、笑いの要素がいっさいない役ですから、クレジットも本名の「滝川広志」にして、素の自分をさらけ出すつもりで演じました。
監督からも、「この作品は『死』をテーマにした重い作品だから、現場でふざけないでください」って言われてたから、カメラがまわってないところでも大人しくしてね。

もちろん、この経験は勉強になったし、僕にとってとても有意義な学びの場だったことは、言うまでもありません。

明治座との出会いは
僕にとって貴重な場だった

コロッケさんは、歴史あるお芝居の殿堂、明治座での座長公演もされていますね。舞台の上で喜劇を演じるというのは、ものまねとは別のスキルを磨くきっかけになったのではないですか?

コロッケ
おっしゃる通りです。明治座の舞台に立ったのは、2009年の『仙台四郎物語~福の神になった男』が初めてでした。

明治座公演の特徴は、第一部がお芝居で、第二部がものまねショーという二部構成にあるんですが、ものまねは後半でたっぷりやるんだから、前半のお芝居はしっかりやろうと、頑張って稽古に臨みました。

先ほど、ものまねは最初の1秒で笑いがくる、瞬発力のある笑いだと言いましたが、喜劇の笑いはそれとはかなり性格が違います。
まず、お客さんに登場人物としてのキャラクターを伝えなくてはならないし、ストーリーに沿ってその人物が醸しだす仕草だとか、セリフの「間」が笑いを生み出していく。

2009年の時点では、試行錯誤でしたけど、2011年に再び明治座の座長公演『棟方志功物語』を上演したときには、手応えのようなものがありました。

物語は、青森の刀鍛冶職人の三男坊として生まれた棟方志功が「世界のムナカタ」と呼ばれるアーティストに成長していくサクセスストーリー。共演者のなかには、僕が尊敬する喜劇役者の左とん平さんがいました。

とん平さんは、別に変な動き、変な顔をすることなく、ちょっとした「間」の工夫で大爆笑をとるんですよ。

公演は7月の始めから8月の半ばまで続く長丁場だったんですけど、半月ほど経ったころに、とん平さんからこう言われたんです。
「コロッケ、舞台の上のあんた、志功ちゃんに見えたよ」って。
めちゃめちゃうれしかったです。心のなかで「やったー!」と叫んでいました。

僕を元気にしてくれる言葉、
「相手が一番、自分は二番」

明治座では、その後も途切れなく喜劇公演に出演してきたコロッケさんですが、2022年7月に公演予定だった『コロッケ芸能生活40周年記念公演』は、新型コロナの感染拡大という思わぬ出来事によって、公演が中止になってしまいました。無念だったでしょうね?

コロッケ
無念も何も、仕方のないことだと受け入れるしかなかったですよ。

前編のインタビューでもお話しましたけど、真っ黒だったスケジュール帳がある日突然、まっ白になった経験は、これが初めてではありません。
ですから、時間が空いたことを利用して、これまでの芸をブラッシュアップすることにあてることにしました。

以前、古典落語を登場人物ごとに誰かのものまねでしゃべっていく「ものまね楽語会」という公演をしたことがあるんですが、当時は古今亭志ん朝師匠のようなテンポの速いしゃべりができなかったんです。でも、この空白の時間で試しに練習してみると、師匠の噺の速度にだいぶ近づけることができるようになりました。
田中邦衛さんの声の父親と、淡谷のり子さんの声の母親と、志村けんさんの声の息子との、親子の会話のやりとりの切り換えがうまくなったんです。

編集部注/サービス精神旺盛なコロッケさんは、コロナ禍で磨き上げた「ものまね楽語」の一部を披露してくれましたが、残念ながらそのおもしろさは文字で表現することはできません。近い将来、コロッケさん自身が披露する機会があると思うので、そのときを楽しみにしてください。

そんな紆余曲折を経て、2023年3月には明治座創業150周年記念前月祭『大逆転! 大江戸桜誉賑(かーにばる)』への出演も決まりました。意気込みはいかがですか?

コロッケ
コロナ禍の助走期間を経ていることもあって、今からかなり、ワクワクしてます。

何より感動的なのは、松平健さん、久本雅美さん、檀れいさんをはじめとする豪華なキャスト。この人たちの一員になるには「ものまねを封印します」なんて、おこがましくて言えません。

僕が演じるのは、裏長屋に住む傘屋の万吉。松平健さん扮する負けず嫌いで意地っ張りな殿様と大ゲンカして、それぞれの立場を入れ替えて暮らすという設定。おそらく、これまで誰も見たことがないような時代劇になるでしょう。

ものまねという芸の起源をたどると、歌舞伎ものまねや狂言ものまねがあった江戸時代までさかのぼります。そう考えてみると、僕のものまねも不思議なことに、時代劇とマッチする部分がたくさんあるんですね。
例えば、当時の歌舞伎役者に五木ひろし之介とか、森進一之丞という人がいたと設定があれば、僕がものまね芸を披露しても、何の違和感もないわけです。

時代劇は、お子さんからお年寄りまで楽しめるという、魅力のある物語です。どうか多くのお客さんにこの時代劇を体験してほしいですね。

とても楽しいお話、ありがとうございます。ところで、コロッケさんは2023年3月13日で63歳になります。この記事を読んでいる読者に「年をとっても元気に暮らし続けるコツ」をアドバイスしてもらえませんか?

コロッケ
最近の僕がモットーとしている言葉があるんです。それは、「相手が一番、自分は二番」という言葉。

先輩、後輩という尺度からものを見ると、60歳を過ぎた僕のまわりには、圧倒的に「後輩」と呼べる人たちがどんな場でも多くなります。

例えば、一緒に食事に行ったとき、「後輩」たちは年長者である僕を立てようとして、最初にメニューを差し出してくれます。でもそういうときには、「みんなは何が食べたいの?」と聞くことにしています。「僕の希望はさておき、みんなで一緒に選ぼうよ」と。

そうしたほうが、「へぇ~、今の若い人にはこんな料理が好まれているんだ」という発見があって、新しいアイデアが浮かぶ機会が増えるような気がするんです。

そんなふうに、自分を刺激してくれる言葉は今のところ、「相手が一番、自分は二番」に尽きると思います

とても楽しいお話、ありがとうございます。

明治座創業150周年記念前月祭
『大逆転!─大江戸桜誉賑(かーにばる)』

明治座創業150周年記念前月祭 『大逆転!─大江戸桜誉賑(かーにばる)』ポスター

明治時代からの長い歴史を持つお芝居の殿堂、
明治座が創業150周年記念前月祭として
『大逆転! 大江戸桜誉賑(かーにばる)』を上演します。

お江戸はサンバのリズムで大騒ぎ!?
物語は江戸を舞台に、殿様と傘職人という立場の違う二組の夫婦が
入れ替わって巻き起こるドタバタ大騒動を軸に、
笑いあり!涙あり!なんでもあり!な、エンターテインメント時代劇をお贈りします。

負けず嫌いで意地っ張りな殿様・亀井御門守(松平健)と、
裏長屋に住む傘屋の万吉(コロッケ)が大喧嘩。
お互い「できるものならやってみろ!」と、殿様は傘屋、傘屋は殿様と入れ替わることに。
そんな中、万吉の女房・お玉(久本雅美)は、御門守の息子で今は勘当され浪人となっている秀宗(荒木宏文)に一目ぼれ!?
奥方付きの女中・おはる(田島芽瑠)は振り回されながらも一生懸命、お玉の世話をするが……。
一方、早々に長屋の住人と打ち解けた殿様の奥方であるお琴の方(檀れい)には、誰にも言えない秘密があって――。

  • 出演
    松平 健 コロッケ 久本雅美 檀 れい
    荒木宏文 / 田島芽瑠 / 丹羽貞仁 真砂京之介 / 上川周作
  • 脚本・演出
    細川徹
  • 上演日程
    2023 年 3 月 4 日(土)~3 月 28 日(火)
    明治座 東京都中央区日本橋浜町2丁目31番1号
  • 公式ホームページ

取材・文=内藤孝宏(ボブ内藤)
撮影=松谷祐増(TFK)

※掲載の内容は、記事公開時点のものです。情報に誤りがあればご報告ください。
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