かっこよい人

テレビ局を早期退職、唯一無二!働く悩みを相談できる書店を開業した西澤明文さん

神戸阪急三宮駅から徒歩1分、立ち飲み屋、バインミーの店、雑貨店、スマホの修理店と多種多様な店舗が並ぶ一角にちょっと風変わりな書店がある。働く人の悩みを解決するための書店「Work-Books」だ。並んでいるのは働くことや人生と向き合うための書籍である。店主は、元テレビ局の社員だった西澤明文さんだ。ここは本を購入することができるだけでなく、働き方や仕事の方向性に悩んでいる人が相談ができる。仕事の悩みを抱えている人に寄り添い、そっと背中を押してくれる働く人のお助け人、西澤さんに話を伺った。

西澤明文(にしざわあきふみ)さん
1965年生まれ 奈良県出身。1989年朝日放送テレビに入社。長年、報道記者として「ニュースステーション」「サンデープロジェクト」などに携わる。2018年ニュース情報センター長に就任。54歳の時に早期退職し、社会保険労務士、キャリアコンサルタントの資格を取得。2025年8月 働くことをテーマにした書籍に特化した書店「Work-Books」をオープン。書籍販売だけでなく、専門知識を生かし働く人たちの相談に応じている。
目次

報道記者として実に面白い時代を過ごしたテレビ局時代

1989年、世はバブルの絶頂期を迎えていた。数年後にはバブルが崩壊することはだれもが予測していなかったあの時代である。西澤さんは大阪の朝日放送に入社し、報道記者として長年テレビの現場にいた。

報道の現場は長かったんですか?

西澤
入社してすぐに報道部に配属されました。バブルの絶頂期でしたので、大阪の街中で、突然ニワトリが庭に出現するとか、そんな嫌がらせをニュースにしました。

当時は地価が高騰し、地上げ屋による住民を立ち退かせるための嫌がらせが後を絶たなかった。西澤さんが取材したようなことが平然と行なわれていた。その後、西澤さんは報道記者としてテレビ朝日の報道番組『ニュースステーション』(1985~2004年22時台に生放送されていた報道番組。メインキャスターは久米宏)に関わることになった。

西澤
僕がニュースステーションに入る直前がベルリンの壁が崩壊(1989年11月9日)し、昭和が終わった時期です。ニュースというものにみんなが一喜一憂して同じ画面を観ていました。メディアという意味では実に面白い時代でした。

報道記者時代に印象に残った取材はありますか?

西澤
いろいろありますが、ニュースステーションに取り上げてもらった尼崎高校事件が印象に残っています。

どのような事件だったのでしょうか。

西澤
兵庫県尼崎市の車椅子の少年が市立尼崎高校進学を希望して受験し、合格圏に入っていたのに障害を理由に公立高校への入学を拒まれた事件(尼崎高校事件・神戸地判1992.3.13)です。それを神戸新聞が抜いて、その後我々がすぐに追っかけて取材し始めました。世界のニュースも取り扱っていたニュースステーションでしたが、地方の事件が1週間連続でトップニュースになったのが印象深いです。我々は1年間、追っかけました。裁判では裁判長が少年の未来を考慮して年内に判決を出し、浪人が1年で済むようにと早めに結論を出したんです。僕らが報道したからというわけではないですが、メディアってすごいなっていうのを入ったばかりの若造が経験させてもらいました。

報道での仕事は楽しく、やりがいもあったという。しかし、やがて管理職になり大所帯の指揮をとる立場になった西澤さんは自身の気持ちと会社の方針とにズレを感じた。

54歳で早期退職!働く人の悩みを解決するために社会保険労務士を目指す

西澤
どうしてもズレるじゃないですか。定年後のことも考え始めてた時期でしたし、大所帯を仕切るような立場はあまり向いてない。それならいいタイミングでと思って自分から辞めました。

ニュース情報センター長の地位についていた時に退社。西澤さん54歳のときである。テレビ局時代に職場で悩んでいる部下や同僚の姿を多く目にしていた西澤さんは、知識を身に着けて仕事で悩む人たちに活かせないかと考え、社会保険労務士の資格を目指して猛勉強を始めた。

西澤
取り合えず資格を取ろうというような僕のやり方はキャリアの相談に来られた方にはお勧めしてないですよ。テレビ局を辞めてから社労士(社会保険労務士)に合格するまでは、完全失業状態になったのでハローワークに行きました。ちょうどコロナ禍でなかなか仕事がないときでしたが、運よく社労士を目指しているのならこんな仕事があるよと、ハローワークで助成金を担当する仕事を紹介してもらいました。働きながら、キャリアコンサルタントの資格も取得しました。法律を勉強した社労士の世界とキャリアコンサルタントというベクトルの違う勉強をしたことは相談に来られた方の面接をするときに役立っています。いい資格に巡り合えたなあと思います。

社労士の資格を目指したときは、書店を開こうとは決めていなかったそうだが、キャリアコンサルタントの勉強で子どもの頃を振り返る機会があったそうだ。そのときに子どもの頃から本と一緒にいる時間が長かったことや今の自分を形成してくれたのが本だったことを思い出した。

西澤
将来、老後を過ごすのなら本に囲まれていたいと思いました。

子どもの頃に何度も何度もページをめくった『こどもカラー図鑑』

書店・社会保険労務士・キャリアコンサルタントが合体した相談できる書店

西澤さんは2025年6月に「Work-Books」を神戸三宮にオープンした。ただの書店ではない。唯一無二、仕事の悩みや迷いを相談できる書店なのだ。1階の書店は働く悩みにつながる本が約800冊揃っている。

西澤
後発組の社労士としてなにか人と違う特色がある看板を掲げたい思って、今のカタチにしました。1階が本屋でたまたま本屋の主人が社労士なので、仕事の悩みを相談ができるというのはあまりないでしょ。

子どもの頃に何度も読んだという本を見せてもらった。奈良の実家に保管されていたそうだ。ページをめくり始めると、今でもついつい夢中になって眺めてしまうようである。

1階の書店は営業中であれば、西澤さんが不在の場合もLINEで友だちになれば自動扉が開閉して中に入ることができる。2階はトークスペースになっており社会保険労務士、キャリアコンサルタントでもある西澤に仕事の悩みを相談できる。就職に悩んでいる人、今の会社を続けるか転職をしようか迷っている人、やりたいことが明確ではないが将来に悩んでいる人、ハラスメントの悩み、定年後をどうするか決めかねている人などなど様々な仕事の悩みを抱えた人がやてくる。書店での立ち話から相談につながることも多い。3階には社労士事務所も併設し、経営者や人事担当者の相談も受け付けている。

西澤
相談する人にとっては忘れたいことだったり本当に忘れてしまっていることでも、それがプラスになることかもしれない場合があります。そんなときは深堀して聞いて、本人が「そういえばそうでしたわ」という感じで自分の本当の気持ちに気付いてもらえたらいいなと。ああせえ、こうせい言うだけでは、人の意見に従うだけです。本人が納得して自分で決めることができるようなアドバイスを心掛けています。人生のことですから自分で決めるのが一番です。それを人様やチャッピーに決めてもらうのは違うと思います。相談に来られた方の気持ちをつむぐように聞いていきます。

例えば自信満々で資格もあります、その資格を生かして転職したいと相談に来たとしても、本心は実は自信がなく武装するために資格を取り、本当にやりたかったことは資格を取って戦うことではなかったという場合もあるという。相談者は話しているうちに本当に自分がやりたかったことが見えてくる。

まるで人生相談みたいですね。

西澤
近いものがあります。社労士の領域でアドバイスをすればいいのかキャリアコンサルタントの領域でアドバイスする方がいいのか、相談者の悩みによって使い分けています。

テレビで伝えきれなかったことを個人個人の身になって伝え、悩みを聞いてアドバイス

西澤
今の仕事はテレビ局にいたら絶対できなかったことです。同じ情報をテレビで何度も伝えたとしても個人個人にはなかなか届きません。ここではリアルにその方の悩みを聞いて対応できます。「悩んでます」と言って来られる方は多いですが、ここまで歩いて来られる方は実はそれなりのエネルギーがある人なんです。背中を押して欲しいだけという方がけっこういらっしゃいます。

セッションは50分5,500円(2026年6月現在)である。自分では気づかない選択肢が見つかったと喜ぶ相談者も多く、継続的に来るリピーターも多いそうだ。

ここにはちょっと嬉しいシステムがある。就職が決まらないので相談したくてもお金がないという人のために無料で使えるチケットがあるという。相談料が払えない人の代わりにチケットを購入してくれる人がいるそうだ。「Work-Books」の仕組みに賛同してくれた人やここに相談に来て就職が決まった人が誰かに使ってもらえればと寄贈してくれるのだという。

西澤
いつもあるとは限りませんが、就職が決まらない、お金もないという方に使ってもらっています。使った方が就職が決まった後、誰かのためにチケットを購入してもらえたら嬉しいです。

恩送りである。おだやかな口調の西澤さんと話していると、何でも相談できそうな気になってくる。開業して間もなく1年、まだまだやりたいことがあるようだ。

西澤
障害を持っている方のサポートはありますが、ヤングケアラ―のように支えられている人を支えている人がしんどくなったら支える仕組みはあまりありません。支えている人が辛くなったら支えられている人も一緒に路頭に迷います。支えている人が困窮したり燃え尽きないためのサポートができるシステムができないかと考えています。1人でできることは限られますが、プロのネットワークができたらと思い、小さなイベントを重ねています。

仕事の悩みを相談に来る方の中にも支えている側の方がいるという。法律に詳しい行政書士、経営のことが分かる人、組織づくりに詳しい人などそれぞれの力を借り、プロのネットワークをつくるために出会いを大事にし、著者のイベントを行ない、つながりを広げている。

西澤
1人でできることしかしませんけれど、プロの知恵が集まればと思っています。

報道記者としての経験、子どもの頃から本が好きだった思い、社労士、キャリアコンサルタント、それらが全てが、これからやりたいことにつながっている。

働く悩みを解決するための書店「Work-Books」

住所
〒650-0012
兵庫県神戸市中央区北長狭通2-31-41

火曜定休
8:00~21:00

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