かっこよい人

「若づくり」はもう古い!アウト老・みうらじゅんが提唱する「老けづくり」の美学【前編】

我らがMJこと、みうらじゅんさんの最新エッセイ『アウト老(ロー)のすすめ』(文藝春秋)は、大人げないまま新型高齢者となったみうらさんの珍妙な日常を綴った珠玉のエッセイ集だ。
発売以降、続々と重版を重ね、Amazonの近現代エッセー部門の一位になるほどのヒットを記録している。
アウト老とは、はみ出し老人のことなり──。
67歳になった現在のみうらさんの心境に迫ってみよう。
人生をおもしろくする知恵に満ちた迫真のインタビューだ!

記事は前編と後編に分けて公開します。

みうらじゅん
1958年、京都市生まれ。1980年、武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。以来、エッセイスト、イラストレーターなどで活躍。1997年、自らの造語「マイブーム」が新語・流行語大賞を受賞。ほかにも「クソゲー」、「ゆるキャラ」などの命名者でもある。著書に『アイデン&ティティ』、『マイ仏教』、『見仏記』シリーズ(いとうせいこう氏との共著)、『「ない仕事」の作り方』(2021年本屋大賞「超発掘本!」に選出)、『通常は死ぬ前に処分したいと思うであろう100のモノ』など多数。
目次

若づくり全盛時代に「老けづくり」で逆走中!きっかけはコロナだった

「マイブーム」の生みの親として、つねに自分が夢中になれることを追い続けているみうらさんですが、最近のマイブームは何ですか?

みうら
すでにお察しかと思いますが、「老けづくり」です(笑)。

コロナ禍のステイホームで、毎日のヒゲ剃りをやめてみたんです。すると、伸ばしたヒゲに白髪があるのに気づいて、「やった!」となってね。

髪の毛に、「白髪がない」というのは還暦を過ぎた僕のコンプレックスのひとつでした。

だから、自分のヒゲに白髪を発見したことは僕にとっては、すごくラッキーな出来事で、さらに盛って「老けづくり」を続行することにしたんです。

世の中の人は普通、65歳以上の前期高齢者になった時点で「若づくり」を考えると思うんですが、みうらさんは逆張りしたわけですね?

みうら
「若づくり」は競合が多すぎますもんね。だから僕は、そっちの方向に頑張るんじゃなくて、ロック的に逆を行くという選択をしたわけです。

「あれ? 最近みうらさん、すっかり老けましたね」と言われるようになるまで頑張ろうと。

ヒゲラルキー研究で導かれた「アウト老」への道

とにかく、みうらさんの「老けづくり」は、ヒゲを伸ばして白髪アピールをすることから始まったわけですね?

みうら
そうです。昔から大好きな京都・三十三間堂の御本尊の千手観音の脇に立っている婆籔仙(ばすせん)のヒゲに憧れているもので(笑)。

順調にヒゲは伸びていったんだけど、ある程度伸びたところで「若輩者の僕が、先輩方より伸ばしていいものか?」という疑問が生じたんです。僕はそれを、「ヒゲラルキー」と呼んでいます。

ヒゲの世界にも、ヒエラルキーというものがあるんですか?

みうら
あるんじゃないかとね(笑)。

ヒゲと言って思い浮かぶのは、板垣退助や伊藤博文など、明治維新の政治家たち。それに僕が中・高時代によく聴いていたロックな方々。そこで、彼らの肖像写真をスクラップ帳に貼ってみたんです。「ものすごく伸びてる人」と「普通に伸びてる人」と「ちょっと伸びてる人」という具合に。それで、当時の年齢などを調べました。

その結果、どんなヒゲラルキーを発見したのでしょう?

みうら
「ヒゲラルキーはない」というのが結論でした。特に規則性はなかった。

ともかく、ヒゲラルキー問題が片づいてからは、かつて「老けづくり」に取り組んできた先人たちにも配慮が必要なんじゃないかという思いがあって、いろいろ調べてみました。

そのなかで印象深かったのは、1952(昭和27)年に公開された黒澤明監督の『生きる』で、主役を演じた志村喬さんの年齢です。

映画のラスト近く、雪の降る公園でブランコに揺れながら、ヨボヨボの姿で『ゴンドラの歌』を歌う主人公を演じた志村さんは当時、47歳……。スゴくないですか? てっきり70歳は越えてらっしゃると思ってました。そのギャップの大きさに衝撃を受けましたし、老けづくりというのは一筋縄にはいかない、そう感じました。

還暦過ぎに訪れた「遅れてきた反抗期」

その後、何か反響はありましたか?

みうら
まぁ、親にはとても評判が悪かったですね(笑)。

親にとって子どもは、いつまでもかわいい子どもなのかもしれないけど、もう67歳ですからね、こっちも。いつまでも「かわいいじゅんちゃん」でいられねーよ、と思いましたよ(笑)。

でも、その気持ちは、ちょっと新鮮でもありました。僕はひとりっ子だったから、反抗期というものがあまりなかったんです。

だから、還暦を過ぎて、遅まきながらの反抗期がやってきた感じですかね。反抗というのはロックスピリッツ、「アウト老」の道を目指すにはうってつけだとね。

『アウト老のすすめ』(文藝春秋)の表紙の杖をついたみうらさんの姿を見ると、みうらさんの「老けづくり」もだいぶ仕上がってきたような印象がありますがご自身としてはどうですか?

みうら
仕上がってきたなんて、とんでもない、とんでもない(笑)。

実はその杖、40代のころにインドで買ったものなんだけど、普段は突いておりません。コブラの杖で電車などに乗ったりすれば、きっと席をゆずられたりするでしょ?

普通の爺さんみたいに人からいたわられてしまうのは、「アウト老」としては困りますから。

「老いるショック!」と「不安タスティック!」で陽気に老いろ

「アウト老」への道は、けっこう険しいケモノ道なんですね。

みうら
ただこれは、時間が解決してくれるんじゃないかと思っています。

還暦になったとき、僕は自分に「老いるショック」という言葉を提唱しました。「ヒザが痛い」とか、「朝早く目が覚めてしまう」といった老いに出会ったとき、鏡に写った自分を指して「老いるショーック!」と叫ぶやり口です。いわば、自らの老いを陽気にかわすための呪文と言えるでしょう。

今、僕のビジョンでは「老いるショック」に始まり、「老けづくり」、そして「アウト老」に到達している道が一番向いてる気がします。

ところで、「アウト老」の先には誰にも避けられない「死」があります。みうらさんは、そのことについて、何か考えたことがありますか?

みうら
いや、努めて考えないようにしています。

もし考えちゃったとき、その不安に打ち勝つのにとっておきの呪文も用意しました。
それは、「不安タスティック!」。「老いるショック!」と同じように鏡に写った自分を指差して叫ぶととても効果的ですよ(笑)。

買って後悔、でも名付けて納得──みうら式コレクション術

みうらさんはこれまで、「いやげ物(もらってもうれしくない土産物)」や「カスハガ(カスみたいな風景の絵葉書)」、「ゴムヘビ(説明不要)」などの収集家として知られていますが、誰も欲しがらないような物をなぜ、収集するようになったのでしょう?

みうら
それも自分洗脳の賜物だと思っています。最初は「ちょっと気になったもの」なんだけど、あえてそれを「好き」になってみるプレイです。

好きなものって、あちらから来るのを待ったところで出会えるもんじゃありません。自分から取りに行かなきゃダメなんです。

だから、僕は観光地に行くと、おいしいものを食べたり観光したりするよりも、土産物屋さんに行って、「一体、こんなもの誰が買うんだろう?」と思うような奇抜な土産物を買うのをメインにしています。買ってもうれしくないだろうし、もらった人はもっとうれしくなさそうな代物。いわゆる、「いやげ物」をね(笑)。

でも、それはまだ「好き」と言えるものなのかどうか、わからないですよね。それにお金を払うのは、かなりの勇気がいるんじゃないですか?

みうら
でも、あえて買う。葛藤する前に、値段を見る前にまず、レジに運ぶ。

僕はこれを「レジスタンス運動」と呼んでいます。そのとき、「5万円です」なんて言われたときの衝撃ったらないですよ。そうやって、自分を困らせることで己を鍛えていくんです。

これまで、買って後悔したものはひとつもないですか?

みうら
いや、たいていのものが後悔から始まってると言っても過言じゃないです(笑)。

頭をマヒさせる方法として、その「いやげ物」に、名前をつけてカテゴライズするんです。

例えば、変な栓抜きは「ヘンヌキ」。ヌードの栓抜きは「ヌー栓」と名づけました。変な灰皿は「ヘンザラ」で、そのなかで鯉の形をしているものは「コイ皿」という風に。とりあえず、そんな世界があるように自分を洗脳していくわけです。

そうやって体系化していてくと、いずれ民俗学になるんじゃないかと思っています。

信じない、比べない。ロックと仏教が育てたアウト老哲学

どうやら、みうらさんの「いやげ物」コレクションは、世間の常識の逆をつく「アウト老」の精神にも通じるような気がしますが、いかがでしょう?

みうら
『天才バカボン』のパパがよく言ってた「反対の賛成は反対なのだ」ですからね(笑)。

ただ、やはり受けた影響として大きかったのは、ロックだと思います。キープ・オン・ロッケンロール!を日本語に訳すと、「また」やってるじゃなくて「まだ」やってる。それが大事です。

やはり、ブレない姿勢を貫くというのが大事なんでしょうか?

みうら
僕にはそうですね。ブレなくなるために、「比較三原則」というのも考えました。

一、親兄弟と比べない
二、他人と比べない
三、過去の自分と比べない

例えば、年をとって、いろんなところが痛かったり、不自由をしているとき「オレはなんてツラいんだろう」と思ったとしましょう。

でもそのツラさは、「若いころはもっと元気だったのに」と過去の自分と比べることで生じたツラさです。同じように「あいつは同じ年なのに、なんでオレより元気なんだ」と他人と比べてもツラくなるし、「親より長生きしても、いいことなんてひとつもなかった」と親の寿命を持ち出してみても、ツラさは増すばかり。

要するに、悩みや苦しみというのは、誰かと比較するから生じるものなんですね。でも、人は弱い存在だから、自分の立ち位置を自覚したくなって、つい比較をしてしまう。
「アウト老」は、努めて比較しなくて生きていく。
キープ・オン・アウト老ライフ! が大事です。

非常に励みになるお話、ありがとうございます。後編のインタビューでは、「マイブーム」という言葉の誕生秘話、もうすぐ千貼りに達しようとしている「エロスクラップ」などのお話をうかがっていきたいと思います。

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取材・文/内藤孝宏(ボブ内藤)
撮影/八木虎造

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