かっこよい人

俳優・阿南健治に聞く【後編】
60歳間近の気の持ちよう

俳優・阿南健治さんのインタビュー後編。ここでは、東京サンシャインボーイズとの出会いと別れ、そして、還暦を間近にした現在の心境について、話を聞いていこう。
「体力の衰え」は誰もが経験することだけど、「気力」は自分を奮い立たせることで必ず維持していけるという阿南さん。読めば元気になる迫真のインタビューだ!

前編記事はこちら→阿南健治インタビュー【前編】不遇時代を元気に生きる方法

阿南健治(あなん・けんじ)
1962年2月24日、大分県竹田市で生まれ、9歳まで兵庫県西宮市、18歳まで尼崎市で育つ。渡辺音楽学院で初舞台を踏み、渡米、大衆演劇、蜷川幸雄スタジオの劇団員といった経験を経て、1989年より劇団「東京サンシャインボーイズ」に所属。1994年に劇団が休団して以降は、テレビドラマや映画、舞台と幅広く活躍している。
目次

劇団時代は、
まだバイトで暮らしてました

バイトをせずに、俳優業のみで食べられるようになったのは、いつごろですか?

阿南
東京サンシャインボーイズの公演に出ていたころは、まだバイトで暮らしてました。バイトを辞めたのは、そのあとに事務所に所属してからのことです。

ただし、劇団の公演があるときは、稽古もしなければならないから、フルタイムのバイトはできません。「タタキ」と呼ばれる舞台の大道具の仕事をやったり、イベントのテント張りとか、石材の運び屋など、1日で終わって給料も日払いでもらえるようなバイトが多かったです。

自分だけじゃなくて、まわりの芝居仲間も同じような立場だったから、「こういうバイトがあるよ」なんて情報はよく飛び交っていましたよ。

ところで、阿南さんは東京サンシャインボーイズに「劇団員」として所属していたんですか?

阿南
そこが微妙なところなんですね。私が東京サンシャインボーイズの舞台を踏むようになったのは、劇団の旗揚げから6年も経ってからのことだから、自分から「劇団員」を名乗ったことはないし、誰かにそう呼ばれたこともないんです。

もっとも、劇団の規模が大きくなって組織が固まってくると、最初のころから公演に出演していた3人が「幹部(笑)」を名乗ったり、近藤芳正さんのように「自分はずっと客演のつもりで劇団に関わっていた」と立場をはっきりさせている人もいたけど、私の場合、公演ごとに全力投球して、次の公演も呼んでもらえればうれしいなあって気持ちでいましたよね。

東京サンシャインボーイズとは、そんなスタンスで関わってきたから、「劇団を解散する」という話になったときは、素直に「今までありがとう」という気持ちでその事実を受け入れることができたと思います。

劇団には、ただただ
感謝の気持ちしかない

「劇団の解散」は阿南さんにとって、どんな出来事でしたか?

阿南
もちろん、「三谷さんともっと芝居作りをしていきたい」という気持ちがまったくなかったかと言えば、嘘になります。でも、同じ生活が永遠に続くなんて、あり得ないことじゃないですか。

牧場のカウボーイ時代、ニューヨークのダンサー時代、大衆演劇時代、蜷川スタジオ時代、どれをとっても1~2年しか続かなかった私が東京サンシャインボーイズに5年間も関わって、その間、14本もの芝居に出ることができたのは、そこでの日々がそれほど充実していたからだと思うんです。
だから、劇団に対しては、ただただ感謝の気持ち、それしかありませんでした。

もうひとつ、三谷さんに大いに感謝しなければならないのは、解散するに当たって、東京サンシャインボーイズに関わったほとんどの役者に所属事務所を紹介してくれたこと。さっき言ったように、劇団員としてのつながりはそんなに強いものではなかったけど、三谷さんは座長として、役者たちに責任を果たしてくれたんです。
その恩は、一生忘れちゃいけないものだと思いますね。

演技には「正解」がない。
だからむずかしいしおもしろい

事務所に所属することによって、長いバイト生活から解放された阿南さんですが、「プロの俳優になった」という実感はいつごろ芽生えましたか?

阿南
正直なところ、自分をそんな風に思ったことは一度もないんです。今に至るまでね。
お客さんの反応がダイレクトに返ってくる舞台と違って、テレビや映画でカメラの前で演じるのは怖さがあります。毎回、「あそこはこう演じていたらよかったなぁ」と、反省ばかりさせられます。

自分の名前をネットで検索することをエゴサーチっていうんですよね? やってみるとおもしろいもんで、いろんな人の感想を読みながら、「うまく伝わったのかなぁ」とか、「厳しい意見だけどキチンと受けとめなきゃな」と一喜一憂しています。

結局のところ、役を演じるに当たって、「こう演じれば正解」というものはないんですよね。舞台は本番前に1カ月くらいかけて稽古をして役作りをするけど、「よし、これで間違いなく本番に臨めるぞ」なんて手応えを感じたことは一度もありません(笑)。

実際、前の日には客席から笑い声が起こったセリフでも、同じように演ってるつもりなのにウケが悪かったりするなんてこと、よくありますからね。でも、その「正解がない」というところに、俳優の仕事のおもしろさがあるんじゃないかなと思います。


キャストの中で私が最年長。
俳優人生で初めての経験です

この8月、阿南さんは池田純矢さんが作・演出を手掛けるエン*ゲキシリーズの最新作『-4D-imetor(フォーディメーター)』に出演しますが、どんなきっかけがあったのですか?

阿南
この公演のプロデューサーに誘っていただいて、台本を読んで面白そうだなあと思い引き受けました。
演劇の世界では扱われることの珍しい「量子力学」がテーマで、ミステリー仕立てのストーリーをイリュージョンマジックで見せるという趣向もおもしろく感じましたね。なんだか楽しそうじゃないですか。

ただ、作、演出、それから主演もつとめる池田純矢くんが28歳で、私と親子くらいの年の差があるってことに気づいたときは、軽いショックを受けましたけどね。

今年の2月で59歳になった私は、出演者、スタッフを含めて最年長。
これまで出演した舞台では、必ず何人かは年上の先輩がいたものですけど、自分が最年長になるなんて初めての体験です。

「うわっ、あと1年で還暦なのか」と、自分が年をとったという事実をつきつけられて、これからの人生のことを真剣に考えなければならないなぁと思っていた矢先だったので、この舞台にキャスティングされたことには感慨深いものがあります。

阿南さんは、若いころから子どものいるお父さん役など、老け役を演じることも多かったですね?

阿南
自分ではあまり、老け顔とは思っていないんですけど、家庭を持つ人の役を与えられるたびに「自分は、そういう感じなのかな」と思うようになりました。

あえて名前は出さないですけど、かなり年上の女優さんが奥さん役に起用されているのを知って、「えっ、この人と同じ年代の役なの?」って驚いたこともありましたね。

ただですね、東京サンシャインボーイズで三谷さんが「当て書き」で役を作ってくれたときと同様、私がその役について、どう思ったかなんてことはあまり重要じゃないと思ってます。私としては、与えられた役をいかに生きるか、血の通った人間としていかに演じるかってことしか考えてないのかもしれませんね。

あらがうってことは、
「生きてる」ってことだ

最後に、「年をとっても元気にイキイキと過ごす方法」を読者にアドバイスしていただけませんか?

阿南
年をとれば、誰もが経験するのが「体力の衰え」ですよね。私自身、日々それを実感しています。

そのために実践している唯一の健康維持法は、自転車に乗ること。仕事場に行くときも、プライベートでも、電車やタクシーに頼らず、自分の足でペダルをこいで移動することを自分に課しているんです。

ただし、坂を登れば息があがってヒイヒイいうし、距離が長くなればなるほど、「以前はもっと体力があったのにな」と思うことが多くなりました。夏の暑さ、冬の寒さも身に沁みるようにもなりましたしね。

ラクをしたいなぁと思うこともありますけど、「あらがうのをやめたらおしまいだぞ」と自分に言い聞かせてます。だって、体力の衰えはどうしようもないですけど、気力だけは自分を奮い立たせることで何とか維持していけるじゃないですか。

ようするに、「老い」とか「衰え」にあらがうってことは、「生きてる」ということと同じことなんじゃないかなとは思うんです。

そういえば最近、「昔の人に比べて、現代人の実年齢は8掛けで考えたほうがいい」って説をネットで見かけたことがあります。私は59歳だから、0.8を掛ければ「47歳」が実年齢ということになります。

「オレはまだ47歳なんだ」と考えてみると、「あと1年で還暦かぁ」なんて思いながら生きてるよりもずっと前向きになれる気がします。だから、これからも精いっぱい、あらがい続けていきますよ。

興味深いお話、どうもありがとうござました!

池田純矢作・演出 エン*ゲキシリーズ最新作
いよいよ上演!イリュージョンで魅せる体感型演劇
エン*ゲキ #05 『-4D-imetor(フォーディメーター)』

エン*ゲキ #05 『-4D-imetor(フォーディメーター)』ビジュアル

池田純矢が作・演出を手掛けるエン*ゲキシリーズの5 作目となる最新作『-4D-imetor(フォーディメーター)』。当初2020 年5 月に予定していた上演は新型コロナウイルス感染症の影響により中止を余儀なくされたが、日程を2021 年8 月へと延期し、再始動。

エン*ゲキシリーズは、役者・池田純矢が自身の脚本・演出により、《演劇とは娯楽であるべきだ》の理念の基、誰もが楽しめる王道エンターテインメントに特化した公演を上演するために作られた企画。

5 作目となる最新作『-4D-imetor』のテーマとなるのは “量子力学”。四次元世界や超能力といった未解明のミステリーを“イリュージョンマジック”で魅せるという、演劇的インスピレーションにあふれた未だかつてない体感型演劇が生み出される。

池田純矢とともにW 主演を務めるのは、女優として様々な活躍で注目を集める生駒里奈。共演には、唯一無二の圧倒的な存在感で多彩なキャラクターを怪演する村田充、映画、TV ドラマ、舞台とジャンルを問わず活躍する松島庄汰、話題作で主演を務めるなど2.5 次元作品を中心に活躍する田村心、衝撃的なマジック“ブレインダイブ”で話題を呼び、本作ではイリュージョン監修も担う新子景視、そして、我らが阿南健治が最年長キャストとして貫禄を見せる。

多層的に壮大なスケールで繰り広げられるミステリー、
奇術×謎解き×演劇の融合による“アトラクション・エンターテインメント”が
いよいよ誕生する! 乞うご期待!

  • 出演:生駒里奈 池田純矢
    村田充 松島庄汰 田村心 新子景視
    阿南健治 ほか
  • 東京公演: 8月5日(木)~15日(日) 紀伊國屋ホール
  • 大阪公演: 8月28日(土)~29日(日) COOL JAPAN PARK OSAKA TT ホール
  • 公式Webサイト:https://enxgeki.com/

取材・文=内藤孝宏(ボブ内藤)
撮影=松谷佑増(TFK)

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