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長編アニメーション映画『果てしなきスカーレット』に声の出演。「新しいことにどんどん挑戦」松重豊さんのアグレッシブな人生の楽しみ方

細田守監督の長編アニメーション映画『果てしなきスカーレット』で、主人公・スカーレットの命を狙うコーネリウス役で声の出演をしている松重豊さん。今年は『劇映画 孤独のグルメ』で監督デビューも果たした松重さんに本作の魅力、キャリア、ライフスタイルなど、語っていただきました。

松重豊(まつしげ・ゆたか)
1963年1月19日生まれ。福岡県出身。
蜷川スタジオを経て、1992年、黒沢清監督の映画『地獄の警備員』で初主演。その後、多くの映画、ドラマで活躍。2012年から始まった主演ドラマ『孤独のグルメ』(テレビ東京)は、10年以上にわたり好評を博している。が大ヒット。2025年、大ヒットした『劇映画 孤独のグルメ』では監督&脚本&主演も果たした。
目次

『果てしなきスカーレット』のベースは『ハムレット』

細田守監督のアニメーション映画『果てしなきスカーレット』は、叔父クローディアス(声・役所広司)に父・アムレット(声・市村正親)を殺された王女スカーレット(声・芦田愛菜)が、死者の国でクローディアスへの復讐に挑む物語。古典「ハムレット」をモチーフにした本作で松重さんが声を担当したのはクローディアスの側近・コーネリウス。まず、細田守監督のアニメーション映画に初めて出演をしたお話から聞きました。

映画『果てしなきスカーレット』 ©2025 スタジオ地図

細田守監督のアニメーション映画で声の出演をするのは初めてだそうですが、依頼がきたときのこと、声のお芝居について教えてください。

松重豊さん(以下、松重さん)
僕はアニメについて、それほど詳しいわけではないのですが、細田監督と仕事をするのは初めてだったことと、物語のベースが『ハムレット』というところに惹かれました。シェイクスピアの作品は舞台で数多く演じてきたので、あの世界をアニメーションで表現をするのは、実に面白い試みだと思ったんです。

僕が声を入れたときは、まだ絵はラフスケッチ、他のキャラクターの声も入っていない状態でしたが、細田監督とシェイクスピアの話などたくさんできて楽しかったですね。

コーネリウス役について細田監督からどのような指示がありましたか?

松重さん
コーネリウスは荒々しい男で、かつ、戦うシーンもあったので、声のトーンもそれに合わせて力強く演じました。細田監督からは細かい指示はなかったのですが、物語とコーネリウスの背景については、たっぷりお話ししました。『ハムレット』の戯曲の中でコーネリウスは詳しく描かれていないんです。イギリスの劇作家・トム・ストッパードが戯曲『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』で『ハムレット』に少し登場する主人公の幼馴染のふたりをクローズアップしていますが、コーネリウスとヴォルティマンド(声・吉田鋼太郎)も『ハムレット』の中で、彼らと同じようなポジションなんです。

コーネリウスとヴォルティマンドを『果てしなきスカーレット』の中で、どう関わらせていくのか、細田監督のお話は興味深かったですし、これまで詳しく描かれていなかったコーネリウスをアニメーションの世界で膨らませていけるなんて面白い仕事だと思いながら演じました。

映画『果てしなきスカーレット』松重さんが声を演じたコーネリウス ©2025 スタジオ地図

ベテランの舞台俳優たちの声量合戦!

完成した作品をご覧になっていかがでしたか?

松重さん
『果てしなきスカーレット』の根底にある『ハムレット』は古典ですが、その世界観はどの時代でも合わせ鏡のように普遍的な人間ドラマを生み出す力を持っていると思いました。社会の矛盾などシェイクスピアのエッセンスが細田監督の解釈でしっかり作品に投影されていると感じましたし、素晴らしい作品でした。

松重さんは舞台でシェイクスピアを演じてらっしゃるので、題材に思い入れもありますよね。

松重さん
僕は20~30代の頃、舞台『ハムレット』を経験したとき『ハムレット』を演じる意味を一生懸命考えて演じてきました。あれから30~40年経って、再び『ハムレット』の世界を『果てしなきスカーレット』というアニメーションを通して演じることができて、本当にうれしいですよ。今も昔も変わらない人間の愚かさ、社会の矛盾などが、この作品を通して若い人の脳裏に刻まれ、意識を向けてもらえたらと思います。

声のキャストも豪華ですよね。

松重さん
この映画には “演劇じじい” が揃っています(笑)。役所広司さん、吉田鋼太郎さん、市村正親さんなど、舞台役者たちの声量合戦になっていましたね。特にクローディア役の役所さんは素晴らしかった。匠の技ですよ。役所さんが舞台でクローディアを演じるのを見たいと思ったくらいです。

新人監督として長編映画デビュー!

キャリアについてお伺いします。松重さんは年齢を重ねて選ぶ作品が変化したり、お芝居へのアプローチが変わったりということはありましたでしょうか?

松重さん
僕は『劇映画 孤独のグルメ』(2025)で監督をさせていただき、俳優とは違うセクションに挑戦することができました。この経験を経て、俳優としては1周まわったのでもういいかなと思っているんですよ。

1周回ったというのは?

松重さん
俳優として再び周回コースに挑戦するか否かと考えたとき、僕は違うコースに踏み出したので、新たな道に進む方がいいかなと思っているんです。僕らくらいの年齢になると、現場でうるさ型になってしまいがちなので(笑)。新たなセクションで新人のように働くのもありだと考えています。

キャリアを積んできた世界ではなく、新たなキャリアを積むという前向きな気持ちなのですね。

松重さん
年を重ねてからの生き方はそれぞれ違うと思いますが、僕は新しいことにチャレンジできるのであれば、そちらに舵を切りたい。その方が人生面白いんじゃないかと思うんです。もちろん同じ道でキャリアを積み重ねていく人生も素晴らしいし、どちらが良いというわけではないです。

ただ僕らの世代は、これまで築いてきた道を若い人につなげていくことが大切。どのような形で繋げていくのかということを僕ら世代は問われていると思います。

やったことない世界に挑戦していきたい!

新しいことへの挑戦について、昔からこの年齢になったらやろうと計画していたことなのですか? それとも巡り合わせですか?

松重さん
巡り合わせですね。ドラマ『孤独のグルメ』シリーズを『劇映画 孤独のグルメ』として映画化するあたり、ずっと主役を演じてきましたが、映画化の機会にこの作品を別角度から見てみようという気持ちが生まれ、監督をやらせていただきました。長く続けていると「こうあるべき」と固定観念に縛られてしまうこともありますから、そこから一度はずれることはとても大事だと思います。

俳優としてやってきた経験値は監督として活かせると思いましたし、もちろん失敗することもありますが「チャレンジしていきましょう」という声があれば、僕としては前向きに取り組んでいきたいですね。

映画監督だけでなく、以前から本を上梓されたり、YouTubeを配信されたり、活発に発信していらっしゃいますよね。今後は、俳優と並行して様々なことにチャレンジしていくのでしょうか?

松重さん
俳優は閉店状態かなあ(笑)。もちろん面白そうな役のオファーがあったらやりたいですが、一回、制作側にまわってしまったら、もう現場の見方が変わってしまうのではないかと。撮影スタイル、脚本など「なんでこうなるの?」みたいな疑問を持って現場にいたくありませんし、面倒臭い役者になりたくないんです。

とにかく新しい世界に飛び込めるチャンスは掴んでいきたいですね。『果てしなきスカーレット』も細田監督との初仕事で面白い経験できましたし、やったことないことはやりたいと思っています。

好奇心旺盛なのですね。

松重さん
飽きっぽいんですよ。これまでやってきたことを追求していく生き方は素晴らしいと思うのですが、僕には向いていないのかもしれません。だから新しいことをどんどんやっていきたい。人生も折り返していますし、この先、できるだけ色々な経験をしていきたいですね。

体にいいことも悪いことも取り入れない健康法

健康について教えていただきたいです。体力勝負の世界でお仕事をされていますが、気をつけていることはありますか?

松重さん
年齢を重ねていくと共に、やはり体は弱くなっていきます。だから僕は体に悪いことはしないようにしています。お酒、タバコはやめて、カフェインも制限しています。同時に体にいいことも積極的に取り入れることもやめました。

体にいいこともやめてしまうのですか?

松重さん
1日何歩歩く、運動を始めるなど、健康のために必要と言われることがありますが、人それぞれだと思うんですよ。健康法にこだわりすぎて依存してしまったら逆効果ですからね。

体調があまり良くないと思ったら、美味しいものを食べたり、天気が良く気持ちいいなと思ったら、散歩してみたり、そうやって自然に任せていますね。

なるほど。松重さんは生活ルーティーンもなさそうですね。

松重さん
そうですね。ルーティーンも依存しがちじゃないですか? その日の体調もあるのですから、その時の気分で決めればいいと思います。自分の体の声を聞いて、その日の気分で行動すればいいのではないでしょうか。自分の体調と相談するのが一番だと思います。

自分の内面を文章にすると
見えてくるものがある

松重さんはファッション、音楽なども幅広く楽しんでいるイメージがあります。趣味へのこだわりはありますか?

松重さん
僕は身長が高いので、昔はサイズがなく、高い服も買えなかったから、着られる服が限られていたんですよ。今はサイズも幅広くあるので、若い頃に楽しめなかったファッションを楽しんでいます。音楽もそうです。若い頃は好きなCDをたくさん買える経済力がなかったけれど、今はサブスク配信で新しい音楽が無尽蔵に聴けるから、大いに活用しています。

自分がまた監督するときに反映できることもあるでしょうし。趣味は仕事の延長線上にあるかもしれませんね。

キネヅカの読者は、定年退職してからやることが見つからない、人生が楽しくないと悩んでいる方も多いんです。松重さんはポジティブに人生を歩んでいらっしゃいますが、楽しみを見つけられない読者にアドバイスをいただきたいです。

松重さん
やりたいことが見つからないのならば、書いてみたらいいですよ。物語でもエッセイでもなんでもいい。そう言われても書くことがないという場合は、「書くことがない」と書けばいいんです。「あいつはたくさん趣味があって羨ましい、なんで俺は何もないんだろう。腹が立つ!」みたいなことでもいいんです。自分の内面を具体的に文章にすると、見えてくるものがあると思います。

若い頃にできなかったことを全部やってみるとか、「何かやりたい!さて何にしよう」と、パソコンでいろいろ調べてみたりするのも楽しいのでは。向いていななければやめればいいんです。自由にいろいろなことにトライしてみてください。『果てしなきスカーレット』の感想をSNSでつぶやくというのもありだと思いますよ。

『果てしなきスカーレット』

2025年11月21日より全国ロードショー

  • 監督・脚本・原作:細田守
  • 出演:
    芦田愛菜
    岡田将生
    山路和弘 柄本時生 青木崇高 染谷将太 白山乃愛 / 白石加代子
    吉田鋼太郎 / 斉藤由貴 / 松重豊
    市村正親
    役所広司
  • 企画・制作:スタジオ地図
  • 公式HP:映画『果てしなきスカーレット』公式サイト

©2025 スタジオ地図

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取材・文=斎藤 香
写真=納谷 陽平

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