かっこよい人

ピアニスト・小原孝の音楽家人生
「年齢を重ねるとともに、幸せ度は増している」

ソロでの演奏活動はもちろん、様々なジャンルのアーティストとのコラボレーションや作詞、作曲、編曲も手掛け、マルチに活躍しているピアニスト小原孝さん。6月21日には53枚目のソロアルバム『ピアノ宝石箱~あこがれ/愛~』をリリース、6月22日には東京での4年ぶりのリサイタルが開催される。CDデビュー30周年&還暦&50枚目のソロアルバム発表という大きな節目とコロナ禍が重なった2020年を経て、現在も精力的な活動を続ける小原さんの音楽家人生を紐解く。

小原孝
1960年、神奈川県生まれ。1986年、国立音楽大学大学院を首席で修了。クロイツァー賞受賞。1990年のCDデビュー以来、通算50枚以上のソロアルバムをリリースし、全国各地でのコンサートは1500回を超える。また、パーソナリティーを務めるNHK-FM「弾き語りフォーユー」は2023年4月で24年目を迎えた。作詞、作曲、編曲も手掛け、ジャンルを問わずに自由に音楽を操るマルチピアニストとして活躍中。
目次

プロになる決心、30歳でのCDデビュー、パーソナリティーを務める長寿番組

小原さんは音楽に囲まれた環境で育ち、国立音楽大学大学院を首席で修了されていますが、プロになろうと決心したのはいつだったのでしょうか?

小原
父がクラシックギタリストで、自宅で音楽教室をしていたので、生まれる前から音楽に囲まれていました。ピアノを習い始めてから、左手の薬指が曲がったままで動き辛いことに気が付きました。多分0歳くらいの頃、知らぬ間に突き指していたようで。国立音楽大学付属中学に入学して以来ずっと、指が悪いからピアニストは無理と言われ続けてきたので、プロになる決心はプロになる直前だったような気がします。逆にプロにならなくてもピアノは続けようと思っていました。

そうだったんですね。1990年、30歳でCDデビューした時はどのようなお気持ちでしたか?

小原
1986年、大学院修了とともに演奏活動は始めていましたが、クラシックだけではなく、由紀さおりさん&安田祥子さん姉妹の童謡コンサートなども含め伴奏の仕事が多かったので、ソロCDのお話が来たときはとても嬉しかったです。最初は1枚だけの予定だったので、こんなに長く、こんなに多くのCDが出せるとは思っていませんでした。

クラシックに限らず様々なジャンルの楽曲を演奏するようになったのは、どのような思いからでしょうか?

小原
子どもの頃から、クラシックも含めて色々なジャンルの音楽が好きでした。僕にとってはそれが極めて自然で、なぜ色々なジャンルを弾くと変わっていると言われるのかがわからないと、ずっと思っています。ごく普通のことで特に理由はないですね。

小原さんと言えば、長寿番組であるNHK-FM「弾き語りフォーユー」のパーソナリティーとしてもお馴染みです。最近では番組がスタートした1999年の録音を放送していましたが、当時のご自身の声や演奏を今聴いてみて、いかがでしたか?

小原
懐かしかったですね。最初の頃はピアノを弾きながらおしゃべりすることに慣れなかったので、台本を自分で書いてそれを読んでいたんですよ。今はフリートークで、台本はありません。初心に戻って、1回1回番組を大切に作ろうと改めて思うきっかけになりました。

ターニングポイントとなった指の怪我、節目の年がコロナ禍に

小原さんの長いピアニスト人生の中での大きなターニングポイントは何でしょう?

小原
ずっと左の薬指を庇って弾いていたせいか、1992年、演奏会の最中に左手の小指の腱を切断してしまったんです。その時に医師から「完璧に治すのは無理。ピアニストをやめるか悪い指でも自分で工夫して弾き続けるか、そのどちらかです」と言われて。それまでは練習しなくても弾けるタイプだったのですが、指の怪我以降は人の2倍以上練習するようになりました。指が悪くてもピアニストを続けられて良かったなと今は思っています。

これまでにピアノを弾くこと、表舞台に立つことをやめたいと思ったことはありますか?

小原
ピアノをやめたいと思ったことはなかったですが、活動の形は60歳で変えようと計画していました。その直前で計画は実行されることなくコロナ禍で崩れてしまったので、実質上はないですね。

50歳を迎えた時と60歳を迎えた時の心境の違いはありましたか?

小原
50歳の時は、頑張れば頑張った分だけ結果が出る。もし結果が出なかったら、頑張りが足りないのだと…。でも60歳になる直前にコロナ禍に突入したので、頑張っても自分の力だけではどうしようもないことがあると知りました。

コロナ禍となってしまった2020年は、小原さんのCDデビュー30周年&還暦&通算50枚目のソロアルバム発表という節目の年でしたよね。

小原
2020年を目指して長期計画をしてきたので、本当に途方に暮れましたね。

振り返ってみて、50代はどんな10年間でしたか?

小原
師匠からずっと「60歳から初めて本当の音楽が出来る」と言われ続けていたので、それを目指しての10年間でした。大変充実していましたが、お世話になった師匠も次々と亡くなられ、10年計画も直前で挫折して何一つ結果を残せず、こんな人生もあるんだなぁと。

では小原さんが今、幸せを感じる瞬間はどんな時ですか? それは年齢を重ねるとともに変化してきましたか?

小原
やはり昔も今も変わらずピアノを弾いているときかな。年齢を重ねるとともに、幸せ度は増しています。

一番好きなことが仕事になった幸せ

コロナ禍をきっかけに始動したYouTubeチャンネルは、現在登録者数8000人を超えています。この活動を始めたことは、小原さん自身にとってどのような影響がありましたか?

小原
それまで超アナログ人間だったのですが、コロナの影響でYouTubeやSNSなどオンライン系にも挑戦しました。逆にコロナ禍じゃなかったら、やっていなかったかもしれません。演奏活動と並行して、東日本大震災心の復興支援活動「逢えてよかったね友だちプロジェクト」も続けています。それまで演奏会場で販売したCDの売り上げ一部をもとに活動していましたが、今はYouTubeチャンネルの収益を加えて活動しています。まだまだ発展途上のチャンネルですけど、継続できたらいいなと思います。観れば観るほど役に立つチャンネルを目指します!

楽しみにしています。さて、6月21日にリリースされるソロアルバム『ピアノ宝石箱~あこがれ/愛~』の選曲基準、聴きどころを教えてください。

小原
こんな時代なので、とにかく心安らぐ美しいメロディーの曲を集めてアルバムを作ろうと思い立ちました。レコーディングを始めたら、音がキラキラしていてとても美しかったので、『宝石箱』をタイトルにしようと。ジャンルを問わず美しいメロディーの曲をたくさん弾きましたが、その中で「八時だョ!全員集合」メドレーは異色かもしれないですね。舞台転換や合唱団入場のメロディーなど、番組を観ていた人はきっとあの頃を思い出すんじゃないかなと思います。

そして6月22日に開催される東京での4年ぶりのリサイタルは、昼の部が「60分リクエスト特集」、夜の部が藤木大地さん(カウンターテナー)をゲストに迎えた公演ということで。

小原
コロナ禍に突入して、夜は外出しない、できない世代の方も増えました。そこで平日にも関わらず昼夜2公演・別プログラムを計画しました。

そういう経緯があったんですね。

小原
昼の部は皆さんのリクエストでプログラムが決まります。どうなるかは当日のお楽しみ。夜の部は、第1部は『ピアノ宝石箱』から名曲の数々を。ラフマニノフ作曲「アンダンテ・カンタービレ」、ジョージウィンストン作曲「あこがれ/愛」、そして「八時だョ!全員集合メドレー」はCDからさらに発展して演奏会用拡大版アレンジで弾く予定です。第2部では藤木大地さんの美しい歌声とともに、やすらぎのひと時を。「君をのせて」「小さな空」など家族の愛や平和をテーマにしたステージをお届けします。これを読んでいる方々も、ぜひ聴きにいらしてください。

最後に、これからの人生プランや今後やってみたいことを教えてください。

小原
実は小学校の卒業文集に書いた「なりたい将来の職業」が音楽家でした。一番好きなことが仕事になって幸せ者だなと改めて思っています。ここまで来たら一生弾き続けたいですね。今話題の全国に置いてある「ストリート・ピアノ」をのんびりと弾きまくる旅、やってみたいです。

リリース情報
小原孝『ピアノ宝石箱~あこがれ/愛~』

小原孝「ピアノ宝石箱~あこがれ/愛~」ジャケット
Amazon詳細ページへ

2023年6月21日(水)発売
[CD]KICC-1610 ¥3,300(tax in)

収録曲

  1. 愛のオルゴール(フランク・ミルズ)
  2. クロス・トゥ・ユー〈遥かなる影〉(バート・バカラック)
  3. 楽しみを希う心 ~映画『ピアノ・レッスン』より(マイケル・ナイマン)
  4. 追憶~映画『追憶』より(マービン・ハムリッシュ)
  5. 優しさ(藤井 風)
  6. ザ・ドリフターズ・メドレー
  7. ピアノ練習曲メドレー~『メトードローズ』『ブルクミュラー25の練習曲』ほか
  8. ロンド ニ長調 K.485(W.A.モーツァルト)
  9. なぐさめ~『無言歌集』より(メンデルスゾーン)
  10. 間奏曲 作品118-2 ~『6つの小品』より(ブラームス)
  11. あし笛の踊り~組曲『くるみ割り人形』より(チャイコフスキー)
  12. パガニーニの主題による狂詩曲 第18変奏〈アンダンテ・カンタービレ〉(ラフマニノフ)―ラフマニノフ生誕150年―
  13. 家路~交響曲第9番『新世界』より(ドヴォルザーク)
  14. わらべうた(中田喜直)―中田喜直 生誕100年―
  15. ウェハース〈子守歌〉~『お菓子の世界』より(湯山 昭)
  16. 別の名(小原 孝)
  17. あこがれ/愛(ジョージ・ウインストン)

コンサート情報

「小原孝ピアノリサイタル2023」
6月22日(木)東京文化会館小ホール

昼の部 15:00開演
~カフェ・ブレイク~「60分間リクエスト特集」あなたが決めるプログラム
夜の部 18:30開演
~ピアノ宝石箱~ スペシャルゲスト:藤木大地(カウンターテナー)

リンク

関連キーワード

取材・文=金多賀歩美

※掲載の内容は、記事公開時点のものです。情報に誤りがあればご報告ください。
この記事について報告する
この記事を家族・友だちに教える