かっこよい人

プロダンサーSAMに聞く!【後編】
「年をとること」をポジティブにとらえる方法

インタビュー前編では、TRF結成30周年をむかえる2022年、還暦をむかえたSAMさんのダンサー遍歴を語ってもらったが、後編では今も新しい挑戦を続けている「ダレデモダンス」の普及やジェロントロジー(老年学)についての学びなどの取り組みについて、話を聞いていくことにしよう。
ダンサーとして「生活の一部」と語る筋トレについても、具体的な実演で解説してもらった。
読めば誰もが元気になる、迫真のインタビューだ!

前編記事はこちら→プロダンサーSAMに聞く!【前編】 ダンスを「職業」として成立させる方法

SAM
1993年、TRFのメンバーとしてメジャーデビュー。ダンスクリエイターとして、コンサートのステージ構成・演出をはじめ、多数のアーティストの振付、プロデュースを行う。近年は、自ら主宰するダンススタジオ「SOUL AND MOTION」にて後進のダンサー指導を行っている。2016年には一般社団法人ダレデモダンスを設立。誰もがダンスに親しみやすい環境を創出し、子供からシニアまで幅広い年代へのダンスの普及と、質の高い指導者を育成している。最近では、能楽の舞台にダンサーとして初めて出演した。
目次

「見せる」だけじゃなくて
「使う」ダンスの可能性に気づいた

60歳になっても現役のダンサーとして活躍しているSAMさんですが、加齢によるカラダの衰えを初めて感じたのは47歳のときだそうですね。

SAM
そうなんです。実は、僕の40代というのは、30代のときより遊びまくっていた時期。「自分のダンススクールを持って若手を育成する」という人生の目標を達成したのが42歳のときなんですが、そこで知り合った若手のダンサーたちと毎日のように朝まで飲み明かしていました。

そんなある日、それまで簡単にできていたアクロバットなダンスができなくなっているのに気づいたんです。腰が重くなっていて、明らかにカラダの瞬発力やキレが衰えているのがわかりました。

このままじゃまずい。放っておいたら、あと数年でダンサーを引退しなきゃならなくなるということを実感したんです。そこから、日ごろのトレーニングを見直して、食事や生活習慣にも気を遣うようになりました。

50歳のときには、TRF結成20周年を記念して『EZ DO DANCERCIZE(イージー・ドゥ・ダンササイズ)』というエクササイズDVDをリリースしますが、どんないきさつがあったんですか?

SAM
実は、TRFの曲を使ってダンス・エクササイズするという企画を聞いて、最初はピンとこなかったんですよ。エクササイズですから、プロのダンサーに振り付けしたり、プロを目指す若手ダンサーに教えたりするのとは違って、誰もが踊れるような振りをイチから考えなければなりませんからね。

でも、「ちょっとおもしろいな」と感じる部分があって、あまり乗り気ではなかったETSUとCHIHARUに声をかけて、「やってみようよ」ということになりました。
こうして試行錯誤の上、上半身集中プログラム、ウエスト集中プログラム、下半身集中プログラムの3枚組のDVDができあがりました。

そして、『イージー・ドゥ・ダンササイズ』はミリオンセールスを記録しました。SAMさん自身、そんなに売れることを予想していましたか?

SAM
とんでもない。本人たちがいちばん驚いていたんじゃないのかな。でも、その反響を受けて、それまで自分がとらえてきた「ダンス」の可能性が広がったような気がしたのは確かです。

つまり、ダンスには「見せる」ことだけじゃなくて、「使う」という側面があるということ。そのあたりから僕は、ダンスを使ってその魅力を多くの人に伝えることを考えるようになりました。

誰もが踊れる
「ダレデモダンス」の誕生秘話

その気づきが「ダレデモダンス」の誕生につながるわけですね。説明していただけますか?

SAM
きっかけは、1つ下の従兄弟で、医師で弁護士の古川俊治に「自分のようにダンスが苦手な人でも踊れるジジババダンスはできないか」と持ちかけられたのを思い出したことでした。

彼は子どものころから神童と呼ばれるほど頭がよく、臨床医をしながら司法試験に受かって弁護士になっただけでなく、今は参議院議員をつとめている大天才なんですが、なぜかダンスしか能のない僕を慕ってくれているんです。

『イージー・ドゥ・ダンササイズ』の思わぬ好評に触れて、そのときのことを思い出したんです。高齢化した日本社会の役に立つようなシニア向けのダンスプログラムが作れるのではないかと。

ただ、シニアの人たちの知り合いがなかったので、僕のダンススクールに通っていた救急ドクターの北川正博さんに相談することにしました。おかげで彼の紹介で北海道釧路市役所の健康推進課の人たちと生活習慣病予防のダンス教室を始めたり、健康とダンスの関係をデータで把握するプロジェクトを開始することができました。それから、地元のさいたま市岩槻区の夏祭りで市民向けのダンスワークショップを開いたりしてデータを集めていって。

すると、4つ年下の従兄弟で、循環器系の医師の丸山泰幸が「ダンスは心臓リハビリに有効かもしれない」と提案してくれて、彼が院長をつとめる岩槻南病院で心臓に疾患のある患者さんたちと週に1度のワークショップを始めることになりました。

最初は20人くらいでしたが、数カ月で120人くらい参加してくださる方が増えました。医学的に安全性を確保しながら、理学療法士の方の意見も聞いて、継続してデータを集めることで心臓リハビリにも有効なシニアプログラムを作り上げていったのです。

どんな成果がありましたか?

SAM
心臓リハビリには歩行練習というのがあるんですが、長く歩くのが苦痛だったという人がダンスを始めることをきっかけに10㎞くらい苦もなく歩けるようになったというケースがありました。それから、うつ病になりかけていた患者さんが元気になったというケースもあり、ダンスと音楽が心とカラダの健康に役立つことが少しずつ明らかになっていきました。

そんな取り組みを経てできあがったのが「ダレデモダンス」なんですね?

SAM
そうです。医師としてアドバイスしてくれていた丸山泰幸は、「心臓疾患のある患者さんに有効なら、どんな高齢者にも有効なはず」と太鼓判を押してくれて、「ならばシニアだけじゃなく、ジュニアにも有効なんじゃないか」という発想につながり、全世代を通じてダンスを楽しめるプログラムに発展していきました。

最近では、中学校の授業にも取り入れられたりして、多くの世代でダンスを身近に感じてもらう機会が増えたと思っています。「見せるダンス」じゃない、「使うダンス」の可能性を日々、実感してますよ。

ジェロントロジーを学び
実践と理論が結びついた

2016年に一般社団法人ダレデモダンスを設立したSAMさんは、ダレデモダンスの普及と指導者の育成に力を入れていきますが、同時にジェロントロジーの勉強もされていますね。何がきっかけだったのですか?

SAM
さまざまな実践と試行錯誤によってできあがった「ダレデモダンス」ですが、ある日、事務所の副社長の芝崎さんが「ジェロントロジー(老年学)は『ダレデモダンス』の理論づけにもってこいの学問ですよ」と教えてくれたんです。あたかも世紀の大発見をしたかのような大袈裟な口ぶりで。

正直なところ、最初はピンと来ませんでしたけど、『イージー・ドゥ・ダンササイズ』のときと同様、未経験なことにチャレンジするのもおもしろいかなと思って勉強してみることにしたんです。

ジェロントロジーは、老年学、加齢学とも呼ばれていますね。どんな学問なのか、簡単に説明していただけますか?

SAM
ジェロントロジーは、年をとることをポジティブに考えて、健康であり続けること、自分らしく生き続けることをとらえた学問です。

というと、アンチエイジングのような若返りの方法を連想する人も多いかもしれませんが、ジェロントロジーの領域はそれよりずっと広くて、医学、心理学、社会学、社会福祉学、教育学、法学など幅広い分野の研究を総合的にとらえているんです。

ダンサーという仕事柄、「運動すること」は僕の生活の一部になっています。毎日のように朝まで飲み歩いていた40代でも、トレーニングに手を抜くことはしませんでした。それでも、年をとっていけばカラダは自然に衰えていくんですね。

若いころに当たり前のようにできていたことが、年をとるとむずかしくなってくる。そのことをネガティブに考えて避けようとするのではなく、自然なこととポジティブに考えて、年をとると人にはどのような変化がやってくるのかを科学的に理解し、健康な状態を長く維持できる方法を考えるのがジェロントロジーの基本なんです。

勉強が嫌いで、医師の道を避けてダンサーになったSAMさんにとって、勉強することは苦痛ではありませんでしたか?

SAM
慣れるまでは大変だったけど、途中から新しい知識を頭に入れることにハマって楽しくなりました。

南カルフォルニア大学デイビススクールの通信課程を受講したので、2台のスマホを使い、1台で講義を再生しながら2台目でメモをとっていきました。理解がむずかしいところは何回も見返すことができるのが通信課程で学ぶ大きなメリットです。朝の日課のトレーニングを終えてレッスンが始まるまでの時間とか、移動中の車内での時間など、スキマ時間を利用して、止めては書いて、止めては書いてを繰り返しました。

修了するには、試験もあるので必死です。1年以上かけてそれをやり遂げたとき、「ダレデモダンス」の動きの一つひとつがジェロントロジーの理論に結びつけられたのを感じました。

何歳になっても「遅すぎた挑戦」はない。
好奇心こそが元気に生き続ける原動力

ところで、SAMさんは近年、能を習っているそうですね。SAMさんが極めてきたストリートダンスと日本の伝統芸能である能は対局にあるものだと思うんですが、どうして興味を持ったんですか?

SAM
ニューヨークでクラシックバレエのレッスンを受けたときのように、異なるジャンルの表現を学ぶことで、自分の表現方法に新しいものを取り入れたいと思ったことがきっかけです。その考えに共鳴してくれる師匠に出会い、これまで長い歴史を積み重ねてできあがってきた能の型や所作などを基礎から学んでいます。

ストリートダンスと能は対局のように見えて、「カラダを使った身体表現」という点においては共通点があります。むしろ、その違いを発見することで、それまで思い浮かばなかったアイデアが生まれてくるんです。

例えば能では、舞台にあがるには足袋を履くのが必須のこととなるので、ストリートダンスのような自由な動きに制約が課されます。でも、その制約から生じたすり足の動きこそが、日本人が長い歴史のなかで引き継いで今に伝わってきた所作を形作っているんですね。

だから、単に「能の動きを取り入れた新しい創作ダンス」ではなく、「能が大事にしてきた日本文化をキチンと理解し、師匠たちが大事にしてきたエッセンスを多くの人たちに伝えられるような新しいダンス」を生み出したいと思って、今はひたすら努力し続けています。

新しいことを始めるのに、「年齢」は関係ないのですね?

SAM
ジェロントロジーの勉強も、能の修練も、僕にとっては「遅すぎた挑戦」では決してありません。新しいことへのチャレンジは、何歳からでも始めることができるし、それは一生続くものだと思っています。
結局のところ、いちばんのアンチエイジングは「好奇心を持って新しいことに挑戦し続けること」なんじゃないでしょうか。

SAM直伝! 日ごろから実践している
「1時間半」トレーニングメニュー

最後に、先ほどのお話にもありました、SAMさんの日々のルーティーンになっている「運動」について、解説していただけませんか?

SAM
50代後半から60歳に至るここ5~6年は、午前6時前に目覚める朝型生活です。

最初は、愛犬とともに近所から30~40分ほど、距離にすると3~4㎞の散歩から一日が始まります。

散歩が終わると、軽い食事をして、シャワーを浴びたりなどして、スタジオに移動してトレーニングを始めます。リハーサルスタジオですから、ハードなトレーニングマシンが置いてあるわけではなく、好きな音楽をかけながらレッスンが始まる午後に向けてゆったりとやっています。

まずはストレッチをやって、次にリズムトレーニングを3分くらい。ステップの練習には1時間くらいかけるでしょうか。最後に行うのが筋トレで、日によってインターバルを入れながら腕立て伏せや腹筋など、じっくり1時間半くらいかけて行います。

筋トレ1時間半とは、すごいですね。具体的にどんなトレーニングをしているんですか?

SAM
では、腕立て伏せを例にして実際にやってみましょう。
まずは、肩幅と同じ位置か、それより狭い位置に手を置いて30回。


続いて、両方の手のひらでダイヤモンドの形をつくって20~25回。


それから、ソファーの肘掛けとか、椅子やテーブルなど、少し高いところに足を乗せて20~25回。


あとは、手の角度を変えたり、手の位置を肩幅より広くしたりして40回。合計して100回以上行います。


腕立て伏せひとつとっても、とんでもない運動量ですね! とても真似ができませんが、初心者でもできる上腕の筋トレがあれば、教えていただけませんか?

SAM
わかりました。上腕のトレーニングについて、初心者の方にいつもオススメしているのが「壁プッシュ」です。

壁の前で両足をそろえて、このように両手を壁につきます。

この状態で腕に力を入れて、壁をプッシュするんです。戻ってくるカラダの推力を利用して、この運動を繰り返します。

ほとんど運動をしていなかった50代の知人にこの方法を薦めたことがあるんですが、最初は5回やるだけで精いっぱいだったそうです。ところが、お風呂場でお湯が溜まるまでの時間にこれを続けていったところ、10回、20回とできるようになって自分のカラダが強くなっていくのを実感したそうです。

そこで今度は、壁と足の間の距離を離して「壁プッシュ」をすることを提案しました。前の足の位置と比べて、こんな感じになります。

そうすると、上腕にかかる負荷が重くなって、トレーニングのレベルをあげることができるんです。足の位置だけではなくて、手をつく位置を上にあげたり、下にしたりして調整するだけで、鍛えたい筋肉のバランスをとることができます。

簡単でしょ? ちょっとしたトレーニングで自分が変化していく。そのことを楽しむ。それこそが「年をとっても元気に生きるコツ」だと僕は思います。

SAMさん、貴重なお話、どうもありがとうございます!

いつまでも動ける。
年をとることを科学するジェロントロジー

SMA・著『いつまでも動ける。 年をとることを科学するジェロントロジー』書影
Amazon詳細ページへ
  • 著者: SAM
  • 出版社:クロスメディア・パブリッシング
  • 発売日:2022年4月1日
  • 定価:1,628円(税込)

60歳を迎えてなお、現役ダンサーとして活躍するSAMがジェロントロジーでの学びをもとに、自身が実践してきた「いつまでも動ける秘訣」を惜しげもなく解説。「昔と比べると疲れやすくなった」「昨日の疲れがひと晩寝てもまだ残っている」など、年を重ねて心身の不調を感じるようになったというときにヒントを得られる1冊です。

「ジェロントロジー? まったくピンと来ないな。それにいまさら勉強なんて……」と最初は思いましたが、よくよく調べると、僕がいま関わっているダンスを通した活動と密接な関係があることがわかりました。ジェロントロジーは年をとること、健康であり続けること、自分らしく生き続けることを学問として捉えているのです。――(本書「はじめに」より)

読者限定! 特典動画

書籍の読者だけが見られる「特典動画」も。動画内では、書籍でご紹介した「股関節に効くトレーニング」をSAMが実演します。

目次

  • 第序章 いつまでも「自分史上最高」でいるために
  • 第1部 実践編
  • 第1章 運動
  • 第2章 食事
  • 第3章 睡眠
  • 第4章 コミュニティ
  • 第2部 知識編
  • 第5章 ジェロントロジーの哲学
  • 第6章 人間が年をとる理由
  • 第7章 ジェロントロジーで社会を見る

取材・文=内藤孝宏(ボブ内藤)
撮影=松谷祐増(TFK)

※掲載の内容は、記事公開時点のものです。情報に誤りがあればご報告ください。
この記事について報告する
この記事を家族・友だちに教える