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映画『見はらし世代』に出演。「エンケンさん」という愛称で呼ばれる遠藤憲一さんの自然体のコミュニケーション術

映画『見はらし世代』に出演している遠藤憲一さんにインタビュー。映画、ドラマなど多くの作品に出演してきたベテラン俳優は、若い人から「エンケンさん」と呼ばれるなど、親しみやすさも魅力。20代の映画監督作に出演した理由から、若者との付き合い方など多くの話を聞いた。

遠藤憲一さんプロフィール
1961年6月28日生まれ。東京都出身。現代劇、時代劇、戦隊ヒーローものなど様々なジャンルの作品に出演してきたベテラン俳優。近作は『バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~』(2021)『首』(2023)『スオミの話をしよう』(2024)『ベートーヴェン捏造』(2025)など。
目次

若いクリエイターとの出会いを大切にしたい

映画『見はらし世代』は、20代の映画監督・団塚唯我の長編監督デビュー作。都市開発が進む渋谷を舞台に親子が再会し、家族の歯車がまた少しずつ動き出す姿を描いた作品です。遠藤さんは、妻の由美子(井川遥)を亡くし、息子の蓮(黒崎煌代)と娘の恵美(木竜麻生)と疎遠になっていたランドスケーブデザイナーの初を演じています。様々な年代の監督と仕事をされてきた遠藤さんですが、20代の監督との仕事は珍しいのではないでしょうか。まずは出演の経緯から伺いました。

©2025 シグロ / レプロエンタテインメント

遠藤憲一さん(以下、遠藤さん)
団塚監督の短編映画を拝見させていただきました。この映画とテーマが近かったし、その短編を観ただけでも、とても力のある監督だとわかりました。僕自身、若いクリエイターとの出会いを大切にしたいと考えているので、出演を決めたんです。

団塚監督の脚本を読まれた感想は? 

遠藤さん
脚本を読んだ時は、不思議な作品だなと思いました。後半はファンタジーのような展開になりますし「これをどうやって撮影するのだろう」と思いましたね。

遠藤さんのキャリアだと、さまざまな世代の監督と組んでお仕事をされてきたと思いますが、20代の監督との仕事はいかがでしたか?

遠藤さん
僕は撮影現場で「こうやってみたらどうでしょう」と、案を出すことがありますが、団塚監督は『見はらし世代』の世界を綿密に構築しているからか、最初から言葉に説得力と鋭さがあったので、こちらからあまり提案せずに、この監督について行ってみようと思いました。

監督は若いけれど、遠藤さんも一目置くような存在だったんですね。

遠藤さん
ただ一度だけ、アイデアを出したシーンがあります。家族旅行の最中に、初と妻の由美子が言い合いになり、その場の空気が悪くなる場面があるんですが、その後に起こったことを、監督は明確に描こうとしていたんです。でも僕はぼかしたほうがいいんじゃないかと提案しました。僕から監督に提案を話したのはそれくらいですね。

提案をあまりしないことは、遠藤さんにとっては珍しいのですか?

遠藤さん
今回、僕のアイデアは監督の演出の邪魔になると思ったんです。人間のあらゆる感情を熟知しているような監督だったので。20代なのに本当にすごいなと思いましたね。

家庭をバラバラにしてしまった男を演じる

©2025 シグロ / レプロエンタテインメント

遠藤さんが演じた初は、家族のことを考えて仕事を頑張ってきたつもりだったのに、家族がバラバラになってしまう……という難しい役どころでしたが、意外とこういう男性は多いんじゃないかとも思いました。初についてどのように考えて演じましたか?

遠藤さん
初は目の前のことに一生懸命になっちゃう人なんです。目の前にやるべき仕事がたくさんあるから「今は頑張りどきなんだ!」と考えている。妻が不服そうでも、自分が仕事を頑張れば、稼ぎも増えるよと。でもそれは家族が求めていることではないのがわからない人なんです。

お芝居としては、台本通りに素直にストレートに演じました。あまり屈折させたりするのは違うと思ったので。でも後半、感情が溢れる場面はありましたね。そこは監督から「思い切りいってください」と言われましたし、僕も初の気持ちが理解できましたから、感情の赴くままに演じました。

人見知りだけれど、挨拶は自分から

この映画では、息子役の黒崎煌代さん、娘役の木竜麻生さんなど若い俳優との共演もありました。遠藤さんはバラエティなどでも若いアイドルの方などと共演されることも多いと思いますが、どのようにコミュニケーションをとっていますか?

遠藤さん
基本的に僕はポンコツなんですよ(笑)。だから若い子と少しでも会話すると、彼らの方が大人だなと感じることも多いです。

思っていることを素直に言っているだけなんです。おかしいときには思い切りゲラゲラ笑っています。この映画の撮影では息子役の黒崎くんとゲラゲラ笑い合っちゃって、スタッフに注意されたことがありました(笑)

どのような話題で爆笑されたんですか?

遠藤さん
黒崎くんが、僕のSNSを見たらしくて、その話題がおもしろくて笑っちゃって。お互いにゲラ(笑い上戸)だから止まらなくなり、笑いを止めるのが大変でした(笑)。

遠藤さんは読者と同世代なのですが、若い人とどう接したらいいのかわからない読者の声が多いんです。遠藤さんは若い俳優やスタッフとのコミュニケーションがとても上手な印象があります。

遠藤さん
僕は、話しやすい、話しにくいということに年齢は関係ないと思います。同世代でも話しかけにくい人はいますし、若い人でも話やすい人はいますから。

そもそも僕は人見知りなので、誰にでも話しかけて仲良くなるというタイプではないんです。けれど、できるだけ自分から話しかけようとはしています。黙っていると「怖い」という印象をもたれてしまうかもしれないので。

初共演の若い俳優さんには「初めまして。よろしくね」と必ず挨拶をしますね。その時の反応でだいたい、気を使わずに接することができる人などわかるので。

最初の挨拶は大切ですよね。そこから始まりますから。

遠藤さん
僕は話題が豊富なタイプではないし、雑談が苦手なんですよ。だから撮影合間の何気ない会話や、その場で起こることなどで笑い合って、コミュニケーションをとっている感じですかね。

実年齢よりも若い役が多くてありがたい

遠藤さんはキャリアも長く、本当に多くの役を演じてこられましたが、年齢を積み重ねるに従って、この年代だからこそ演じられた役とか、歳を重ねたからこそできた演技など感じることはありますか?

遠藤さん
年相応の役が来ると思ったことがないです。年齢は関係ない役の依頼が多いと思いますし、それは本当にありがたいです。

理想的ですね。

遠藤さん
でも体は正直なので、ときどき全力ダッシュをしなければいけないシーンのときなど、けっこうしんどい(笑)。体力維持のために、ストレッチやウォーキングはしているのですが、普段の生活で全力ダッシュはしませんからね。

体力的なことは年齢に関係あるかもしれませんが、遠藤さんは気持ちが若いというのも年齢を問わない役が多い理由では、ないでしょうか?

遠藤さん
僕の年齢(64歳)だと、そろそろおじいちゃん役になるのかと思うけれど、今や70歳でも若々しい方、たくさんいますから。

確かに僕は年齢よりも若い役をいただいていると思います。刑事役は現役だし、医師の役も理事長などではない、医療現場のスタッフだし。個性的な役も演じていますから。

『見はらし世代』のような、現実にもいそうなお父さん役も演じられて本当にうれしいですよ。ぜひ多くの方に映画を観ていただきたい。団塚監督や主演の黒崎煌代くんのような新しい才能からエネルギーをもらってください。

映画『見はらし世代』

映画『見はらし世代』ポスター

2025年10月10日(金)
Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか全国公開

  • 監督・脚本:団塚唯我
  • 出演:
    黒崎煌代
    遠藤憲一
    木竜麻生 菊池亜希子
    中山慎悟 吉岡睦雄 蘇鈺淳 服部樹咲 石田莉子 荒生凛太郎
    中村蒼/井川遥
  • 制作プロダクション・配給:シグロ
  • 配給協力:インターフィルム レプロエンタテインメント
  • 公式HP:映画『見はらし世代』公式サイト

©2025 シグロ / レプロエンタテインメント

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取材・文=斎藤 香
写真=鈴木 潤一

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