映画『メモリィズ』に出演、イッセー尾形さんは語る「考えることを止めない」
芝居、人生、「何がしたいか」考え続けることが人生を楽しむコツ

映画『メモリィズ』に出演しているイッセー尾形さんにインタビュー。一人芝居を確立したイッセー尾形さん。その演技力は誰もが認めるところですが、本作における芝居はどのように生まれたのか。撮影の裏側に加え、一人芝居への情熱、人生の楽しみ方についてお話しを聞きました。

- イッセー尾形さんプロフィール
1952年、福岡県出身。1971年より演劇を始め、1980年代から独自のスタイルで一人芝居を確立させる。そのほか舞台、映画、ドラマなど多方面で活躍。また公式YouTubeでは芝居、人形劇なども発信。最近の活動としては、舞台『イッセー尾形の右往沙翁劇場』舞台『セールスマンの死/Death of a Salesman』。2027年には映画『無用の人』が公開される予定。
台本に苦戦、ポイントが掴めない?
映画『メモリィズ』は、足を骨折した義父・誠(イッセー尾形)を手伝うために九州の田舎町にやってきた雄太(柄本佑)と誠の少しぎこちない日常、東京にいる妻と娘とスマホで撮った映像を交わす些細な日々を描く物語。監督と脚本は、本作が長編映画監督デビューとなる坂西未郁。イッセーさんは小さな写真館でさまざまな人を撮影しながら、雄太との距離を縮めていく誠を演じています。まず誠役についてお話しを聞きました。
映画『メモリィズ』は田舎で暮らす人の日常がゆったりとした時間の中で綴られた作品ですね。ロケ地の自然も気持ちよく、時間の流れが贅沢な映画だと感じました。大きな事件が起こる作品ではないので、誠を演じるのは難しかったのでは? 役作りについて教えてください。
イッセー尾形さん(以下、イッセーさん)
最初に台本を読ませていただいたのですが、とにかく難しかったです。“はずす台本”でしたね。芝居どころをはずすという意味で、自分は最初、この台本が読めなかったです。物語に劇的なところがないので、どうやってこの作品に中に入っていけばいいのか迷いましたし、撮影が始まっても、難しく判断つきかねることもありました。
でも完成した映画を見て、坂西監督が表現したかったことがわかったように思います。今の時代、人間関係の築き方はいろいろな形があると思いますが、人と人とが向き合うことの大切さを目指していると感じました。そのとき「出てよかったなあ」とじんわりと実感できました。
そんなふうに「どうしたらいいのだろう」と悩み続けた撮影は、イッセーさんのキャリアでも珍しいことですか?
イッセーさん
そうですね。いつもは役の勘どころを捉えられるんですが、それが今回はうまく捉えられなかったんです。そんな経験は初めてでしたね。
カメラマンとして新婚さんのご夫婦を撮影する場面、風船が飛んでくる瞬間を撮るというのが坂西監督の希望だったんです。そのとき「このシーンのポイントはそれだ」と思いましたが、そういうポイントとなる瞬間が少ない作品でした。
でも終わってみて思うのは、ポイントが多いと逆にやりすぎてしまうので、少なくて良かったと思います。
公式資料にアドリブも多かったとありましたが、誠役についてご自身なりに解釈してアドリブを入れていったのでしょうか。
イッセーさん
アドリブか、台本のセリフか、どっちという分け方はしていなかったと思います。義理の息子がやってきて、しばらく二人暮らしをする。その空気感はどういうものなのか。誠にとって雄太と生活するのは初めてなので、手慣れたものではない。そういうぎこちなさは意識しました。雄太を演じた柄本佑くんとも初共演でしたから、初めて感を大切に演じました。
初めてを大切にするというのは大事なことですよね。
イッセーさん
そうですね。ただ初めての新鮮さは繰り返すものではなく、新鮮さは次第に薄れていくじゃないですか。でもそれを嘘でもいいから常に感じさせるのが俳優。本物の新鮮にはかなわないので、何が新鮮なのか、新しいことなのかを見定めることを大事にしながら演じましたね。
本作で柄本佑さんと共演されていますが、イッセーさんはこれまでも若い俳優さんと多く共演してきたと思います。若者たちとのコミュニケーションはどうされていますか? キネヅカ読者は中年以降世代で、若い人との付き合い方がわからない人が多いんです。
イッセーさん
あまり考えませんね。若い人とのコミュニケーション、できないんだから(笑)。それはこっちが一方通行で「できません」と言っているのではなく、おそらく若い方達も、僕たちくらいの世代に対して、どう接していいのかわからないと思うんです。
それでも認め合うことは大切。この映画も老いも若きも認め合うことからスタートしているので、そこを間違えないようにしたらいいと思います。若い人のことわかっている、うまくいっているふりをしても無理がありますから、お茶を濁さないようにした方がいいですよ。
一人芝居の海外公演を経験して感じた観客の自由度
キャリアについてお伺いします。年齢を重ねて仕事への向き合い方が変わった瞬間はありましたか?
イッセーさん
僕は一人芝居をやっているのですが、海外公演を経験したときに変化がありました。日本と海外ではお客さんのリアクションが違うんです。日本の観客のみなさんは周囲のことを気にされますから、みんなが笑う、みんなが静かになるというように、舞台の雰囲気を壊さないようにと考えながら楽しんでくださいます。でも海外のお客さんはとても自由です。笑いたいときに笑う。他の人がどういうリアクションをしているか関係ないんです。
確かにノリが違いそうな気がします。
イッセーさん
それから同じネタでも受け取り方が異なることも多いです。そういう経験を自分が舞台で体感し「もっと人を信頼していいんじゃないか」と思うようになりました。
ドイツ公演をやったとき、同時通訳者がドイツ語に翻訳してくれるんですが、ドイツ語は日本語よりも言葉数が多く、同じ意味でもセリフが長くなります。僕のセリフは終わっているけれど、同時通訳さんはまだ言葉を続けている。ずれが生じるんですよ。それでもお客さんは笑ったり、リアクションをしてくれたりする。そういうのを舞台で感じて、こちら側も自由度が増し、もっと色々な話を書けると感じました。
なるほど。それは実際に経験しないとわからないことですよね。ちなみにひとり芝居はかなり体力を使うと思いますが、普段、体力と体調管理で気をつけていることはありますか?
イッセーさん
僕は15年くらいピラティスをやっています。体幹を整えるのでいいんですよ。ただ持続力は落ちてきました。あと僕の一人芝居は、ひとつネタをやるごとに着替えが入るんです。それがインターバルのようなもので、ダッシュして戻って一休みして着替えて出る。その繰り返しです。マラソンみたいに走り続けることは無理ですね。
大切なのは意識の継続です。雑念が生まれてしまうと意識は薄くなりますから。役の意識をずっと維持していくことが大事です。面白いのは「ここはちょっと力を抜いてもいいところ」っていうのを自分でシュミレーションして調整できることですね。
舞台では、常に考え続けているんですね。
イッセーさん
前の日と考え方が違ってもいいんです。ちゃんと演じられているのなら。同じことを考えるのではなく、とにかく考えることを毎日続けることが大事なんです。まあ、私の場合、否が応でも考えちゃうんですけどね。
人形を手作りしてから生まれる物語
イッセーさんの公式サイトからYouTubeへアクセスできるようになっていて、人形劇や舞台など拝見したのですが、あの人形はご自身で作られているんですか?
イッセーさん
そうです。樹脂粘土というのがあり、普通の粘土よりも細かい動作まで作ることができて、乾きもはやいんです。あの人形たちは僕の分身みたいなものです。人形作りはとても楽しいですよ。
人型にして、頭と手脚つけて、顔も作っていくとだんだん人になっていって、愛おしくなっていくんです。わずかな調整で表情が変わりますから。
人間だって「こんな表情してみよう」と思っても、次の瞬間は微妙に表情が変化している。それと一緒です。「人形といえど、人なんだ」そんな気持ちで作っていきたいです。
人形作りながら物語が生まれることもあるんですか?
イッセーさん
ありますよ。物語があるから物を作るのではなく、物を作ったから物語ができるんです。
人形がストーリーを生み出すきっかけを作っているのですね、すごい。
定年を迎えた人がやるべきこと
最後に、キネヅカの読者は定年退職した年齢の方が中心なのですが、これからの人生どうやって楽しみを見つけたらいいのかわからない方が多いんです。そう言った方達に人生を楽しむコツをアドバイスしていただけますでしょうか?
イッセーさん
若い頃に建築現場で働いていたんです。冬、日が暮れて暗くなった頃、ふっと見ると目の前のビルに灯りがついていて、中でサラリーマンの方たちが右行ったり左行ったりしているのが見えたんです。何やっているのかなと。当時は想像がつかなかったんですが、会社勤めの彼らは知的労働をされていたんですね。そういう方たちが定年になって、これから何をしようかと悩んでいるはずがないと思っています。絶対にあれがしたい、これがしたいということがあるはずだと。ここまで知的労働をやってきた方たちの行き場がないなんて嘘だ。僕はそう思っています。
本当はあるはずなのに気づいていないだけだと。
イッセーさん
「何をしていいかわからんよ」と言ったら「そんなことないでしょう」と誰かが言ってくれると、その言葉を待っているんじゃないですか。「なんかあるでしょう、海行きたいとか、山登りたいとか」と聞かれれば「海、いいねえ」と。そんな会話も楽しいじゃないですか。定年退職したら、もう会社に行かなくていいのですから、どこへ行こうと自由ですよ。
人間は生まれてから死ぬまで意識が続いている状態だから、誰かと「何がしたい?」「どうする?」という会話を積み重ねて、意識を言葉に変えていってほしいです。やることないなんて言っていないで、やることいっぱいあるんだから。気づいたことを言葉にしていってほしい。それが役目でもありますよ。みなさん頑張ってください。僕も芝居で頑張ります。
映画『メモリィズ』インフォメーション

2026年6月12日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
- 監督・脚本:坂⻄未郁
- 出演:柄本 佑 / 穂志もえか / 梅沢昌代 伊佐山ひろ子 成田裕介 占部房子 / 香椎由宇 / イッセー尾形
- 製作・配給:リトルモア 宣伝:ヨアケ 製作協力:FOD
- 特別協力:竹田市
2026 年 / 日本 / カラー / ビスタ / 5 .1ch / 97 分/
©2026LittleMore memorizu.jp
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