映画『ラプソディ・ラプソディ』の監督・脚本・出演の利重剛さん。岡本喜八監督へのファンレターがつないだ縁が“人生を変えた!”

高橋一生さんの主演映画『ラプソディ・ラプソディ』の利重剛監督にインタビュー。監督、俳優と幅広く活動している利重さん。映画制作の裏側から利重さんのキャリア、人生を楽しむ方法などについて語っていただきました。

- 利重剛さんプロフィール
1962年7月31日生まれ。神奈川県出身。
19歳のときに監督した自主制作映画「教訓Ⅰ」がぴあフィルムフェスティバルに入選。岡本喜八監督作『近頃なぜかチャールストン』(1981)では主演、共同脚本、助監督を務める。ほか監督作として『BeRLiN』(1995)『クロエ』(2002)など。俳優としての出演作は多数。本作にも主人公・幹夫の叔父役で出演している。公開待機作に『未来』(5月8日公開予定/瀬々敬久監督)、『祝山』(6月12日公開予定/武田真悟監督)、『おばあちゃんの秘密』(2026年初夏公開予定/今関あきよし監督)などがある。
映画の神様が背中を押してくれた作品
『ラプソディ・ラプソディ』
利重剛監督作『ラプソディ・ラプソディ』は、未婚の主人公・夏野幹夫(高橋一生)が、いつの間にか見知らぬ女性・繁子(呉城久美)という女性と結婚していたことから始まるラブコメディーです。利重監督は、幹夫の叔父さん役として出演もしています。2013年の『さよならドピュッシー』以来、13年ぶりに作品を発表した利重監督。まずは映画化の経緯からお話を聞きました。
久しぶりの監督作であり、10年前に脚本は完成していたそうですが、映画制作が決まるまで大変でしたか?
利重剛さん(以下、利重さん)
それほど困難だったとは思っていないんです。コロナ禍の中、映画制作が難しい時期もあったので、時間はかかりましたが、逆によかったと思っています。映画界が動き出し、制作費の問題もクリアできましたし、精神的にも落ち着いた頃に着手できました。あの頃、無理して作っていたら、本当に大変だったと思います。お客さんが劇場に来てくれなかったでしょうから。
なるほど。みなさん外出を自粛していた時期です。
利重さん
僕は自分が監督した映画が完成したとき「この時期に作れてよかった」といつも思うんです。「うまくいかない、なかなか進まなくて悔しい」と思うことはほとんどないですね。それは映画の神様が「そろそろいいよ」と決めているのではないかと。
「いま集まったメンバーがベストの布陣だよ」と背中を押してくれていると思っています。この映画も、脚本が完成してすぐに映画化が決まっていたら、主演は高橋一生くんではなかったと思いますし、撮影も池田直矢さんではなかったと思います。池田さんと10年前は知り合っていませんでしたから(笑)
監督と俳優、一つの作品でWワーク!
10年間、脚本を練られていたと思いますが、最初の書いたものと大きく変化したことはありましたか?
利重さん
変わったといえば、主人公の年齢ですね。僕が演じる叔父さんは甥の幹夫に「なんで結婚しないのか?」と聞きますが、最初、幹夫の年齢は30代だったんです。でもいま30代で未婚の方はたくさんいらっしゃいますし、全然珍しいことじゃない。だから少なくとも主人公は40代じゃないとおかしいなと思いまして、年齢の設定を変えました。それくらいですね。
利重監督も出演されていますが、監督として演出しながら俳優として出演する場合、どのように現場をまわしていらっしゃるのですか?
利重さん
今回、難しかったですね。これまで俳優やるときは芝居のみ。監督やるときは演出のみと分けていたので、どうしたらいいのだろうと考えました。結果、人に頼ることにしたんです。撮影監督の池田さんや助監督さんに、自分が出演しているシーンはスタートからカットまで見てもらいました。終わったら「どうでしたか?」と聞いて進めていきました。
やはりどっちつかずだと自分も不安になり、演技がガタガタになってしまったり、自分の芝居が良くないかもしれないのに人に指示していいのだろうかと演出にも影響が出たりするかもしれない。だから自分の出演シーンを信頼しているスタッフに任せることができて良かったです。
師匠・岡本喜八監督から教えてもらったこと
利重監督のキャリアについてお伺いします。多くの作品に出演されてきましたが、監督の映画作りに一番影響を与えたり、気付きを与えてくれたりした作品、人、言葉などはありますか?
利重さん
映画作りに影響を与えてくださったのは、岡本喜八監督と大島渚監督ですね。僕の師匠は岡本喜八監督です。
主演デビュー作『近頃なぜかチャールストン』の監督ですね。この映画では主演だけでなく、脚本も担当していらっしゃいます。
利重さん
僕は学生時代に8ミリ映画を制作していまして、その作品が「ぴあシネマフェスティバル」に入選して、池袋の文芸坐で上映されることになったんです。僕はうれしくて、大ファンの岡本喜八監督にファンレターを書いたんです。岡本監督の映画が大好きですと熱く綴り、生意気だけれど「僕の映画が今度上映されるので観ていただけませんか?」と書いたんです。そしたら本当に観てくださって「面白かったよ」と連絡をくださったんです。
すごいですね!
利重さん
「一度、遊びに来なさい。今、メモ取れる?」と言われて住所を教えていただき、岡本監督のお宅に遊びに行ったんです。もうガチガチに緊張しましたよ。そのときに岡本監督から得たことは大きかったです。
「監督やりたいの? 俳優やりたいの?」と聞かれ、監督になりたいなんて、当時はおこがましくて言えないから、作りたい映画が何本かあるだけですと言いました。そしたら役者はやっておいた方がいいと言われました。
監督だけではだめなのですか?
利重さん
岡本監督がおっしゃるには、撮影所のシステムは崩れてきているから、僕に「映画を撮りませんか?」という人も減っていると。でも有名人になれば、映画を撮らせてもらえるチャンスがあるかもしれない。また依頼がなくても、俳優として稼いだお金で映画を作ることもできる。だからやっておいて損はないよと。
それから脚本が書けるようになりなさいと。脚本が書けないと映画監督になれるチャンスはないと思った方がいい。あと1本でもいいから映画制作の段取りを知るためにも助監督を経験しなさいとも言われました。自主映画をやってきた人たちは無駄な動きが多いけれど、段取りさえ掴めていれば、もっと早く撮れる方法など、見えてくるものがたくさんある。その上で自分なりの映画作りのノウハウ作ればいいと言われたんです。
岡本監督から、映画監督に必要なことすべてを教えていただいたんですね。
利重さん
そうなんです。そのあと「じゃあ、一緒にやろうか」と言われました。『近頃なぜかチャールストン』の脚本を一緒に書いて、助監督もやって、出演もすればいいじゃない? そうすれば今、僕が言ったこと全部できるでしょうと。
すごい、夢みたい!
利重さん
本当に、どこの馬の骨がわからない自分に(笑)
「準備は苦しく、現場は楽しく」を心に留めて
岡本監督は、文芸坐で観た利重監督の作品に感じるものがあったんじゃないでしょうか?
利重さん
巨匠は柔軟なんですよ。当時僕は10代で、監督は50代後半。そのくらい年齢差があった方が、友達みたいになれるし、面白いことをやってみなと言ったりできるのかなと。
あと、きっと岡本監督は、10代の子から「監督の映画が大好きです!」と、熱い思いが綴られた分厚いファンレターをもらってきっと嬉しかったんだろうなと思います。今、自分があの頃の岡本監督の年になり、監督の気持ちがわかるようになりました。
実際に岡本監督の作品に関わって、どのようなことが学びになりましたか?
利重さん
岡本監督はとてもチャーミングな方で、よく「準備は苦しく、現場は楽しく」とおっしゃっていました。いつもひょうひょうとしていて、ユーモラスで。緊張感はありますが、怖い印象はないですね。僕はずっとワクワクしていました。
技術的にはワンシーンを長く撮ってあとでカット割りしますという手法ではなく、ワンカットワンカット丁寧に撮影していました。カット割りは細かかったですね。でも現場はとても自由なんです。監督の指示にガチガチに従っている感覚はなく、すごく仕切られている感じもなく、やっているときは自由でのびのびした気持ちでした。
自分もそうありたいなと思います。あんなふうに監督として現場を仕切りたい。やっぱり岡本監督は永遠に憧れの存在ですね。
最後に、キネヅカの読者は、定年退職後の人生に悩んでいる人が多いんです。ずっと会社勤めをしてきて、やるべき仕事をきちんとやってきたのですが、自由に慣れていなくて、時間を持て余してしまうようです。そんな人たちにアドバイスをいただきたいです。
利重さん
そうなんですね。自由な時間がたくさんあるなんて、楽しいことばかりじゃないかと思うのですが(笑)。でも会社勤めされていた方は、どこかで求められたい、必要とされたいという思いがあるのかもしれませんね。それを外してしまえば、楽しいことがたくさんあると思うのですが。
まだ行ったことのない場所へ行ってみたり、今は配信でクラシック映画も見られるから、好きな俳優や監督しばりで1日何本も映画鑑賞したり。僕からしてみたら夢のような時間です(笑)
働いていると、映画鑑賞する時間もなかなか取れないですよね。
利重さん
まずは散歩から始めてみてはいかがでしょう。『ラプソディ・ラプソディ』は横浜でロケしていますが、さきほど記者の方に「山下公園、久しく行っていないので懐かしかったです」と言われまして。そういう場所がみなさんにもあるのではないですか?
あの店、何年も行ってないとか。そういうふと思い出した場所に足を伸ばしてみるのもいいかもしれませんし、やってみたかったけど、やれなかったことに挑戦するのもいいですね。逆に時間が足りない! なんてことになるかもしれません。
日常に「これってなんだろう」ってことがたくさんあると思います。「この花はなんていう花だろう」「この道を行くとどこに出るのかな」とか。何か成果が得られることではないけど、好奇心を刺激するのもいいですよ。日常に目を向けてみてください。面白いことたくさん見つかると思います。
映画『ラプソディ・ラプソディ』

2026年5月1日(金)よりテアトル新宿、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
- 監督・脚本:利重 剛
- 出演:高橋一生 呉城久美
利重 剛 芹澤興人 大方斐紗子 関口和之(友情出演) / 池脇千鶴 - 音楽:大西順子
- プロデューサー:中村高寛 利重 剛
- 製作:利重 剛
- 後援:横浜市中区役所
- 配給:ビターズ・エンド
- 公式HP:https://www.bitters.co.jp/rhapsody/
- 公式X:https://x.com/Rhapsody_movie
2026/日本/カラー/DCP/5.1ch/106 分/G ©2026 利重 剛
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