物語

移民の多いパリ郊外のとある小学校のオーケストラ・クラスのバイオリン教師として招かれたシモン・ダウド（カド・メラッド）。彼はプロのバイオリニストだったけれど、仕事にあぶれてしまい無職でした。離婚後、娘との仲もうまくいかず孤独だった彼にとって、望んでいた仕事ではなかったけれど、生きていく場所はそこしかなかったのです。

しかし、教室に入ったダウドは、生徒たちがあまりに騒々しくて気分が滅入りました。彼は、このヤンチャな生徒たちを年末のフィル・ハーモニー・ド・パリで演奏できるようになるまで、バイオリンを教え込まないといけなかったからです。

子供が苦手だけど、子供にバイオリンを教える？

冒頭からずっと憂鬱そうな顔のダウド。プロの音楽家だったのに、小学校でバイオリンを教える先生の職しかないことが不満だったのでしょう。おそらく子供も苦手。だから娘との間もギクシャクしたのだと思われます。

子供がいるから「子供に慣れているよね」と思われて、困ってしまった経験のある人いるのではないでしょうか。子持ちでも子供が苦手な人はいます。自分の子供と他人の子供は違いますし、加えてダウドは、バイオリンの先生として年末のコンサートまでに演奏ができるように教えないといけない。このプレッシャーと緊張から、彼は愛想のない先生になってしまい、生徒たちとの間に距離ができてしまうのです。彼の生徒とのぎこちない接し方を見て「わかる」と共感する人、いるかもしれません。

口下手ならば、音楽でコミュニケーション！

生徒との間に距離はあったけれど、騒々しいクラスでダウドがバイオリンを弾き始めると、教室はシーンとします。彼らがダウドの音楽に聴き入っているのです。みんな音楽は好きなのですね。ただ、みんなまだ子供だから落ち着きがないのと、先生＆バイオリンとの接し方にとまどっているのです。

音楽を介した人間関係なのだから、仲良くなる方法は音楽がいちばん！　これは子供に対してだけでなく、大人同士でもありでしょう。コミュニケーションが苦手な人でも、音楽つながりで仲よくなれる！　生徒たちも次第にバイオリンの練習に前向きになっていきます。音楽でつながるコミュニケーションの力は大きいのです。

フランスの現実を投影した作品。

『オーケストラ・クラス』のラシド・ハミ監督は、この映画を制作するきっかけについて、こう語っています。

「共同脚本家が、パリの貧困地区の小学校の子供たちがクラシック音楽を演奏するドキュメンタリーを見て、これは映画になる。君が監督をやらないか？　と提案してきたのがきっかけです。僕も興味を持ち、実際にドキュメンタリーに出演していた子供たちと話していくうちに、物語のあらすじができたのです」

この映画がどこかドキュメンタリーのように見えるのは、物語に真実が存在していたからなのですね。

この映画のダウドは完璧な先生じゃありません。言葉の力で生徒の心を動かすことはなく、逆に生徒と同じようにとまどったり、怒ったり、うまくいかなくて凹んでしまう先生です。でもそこがとてもリアル。そんな先生が前を向いて歩み出すのです、生徒たちと音楽と一緒に……。

スーパーヒーローのような先生じゃないからこそ、共感度が高く、子供たちとの関係を音楽で高めていく姿は気持ちがいい。ラストのフィル・ハーモニー・ド・パリのシーンは素晴らしく、じんわり感動できますよ。