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映画『ばあばは、だいじょうぶ』ウー監督&主演冨士眞奈美&寺田心インタビュー。「日本の介護には心があることを世界の人に伝えたい」

映画『ばあばは、だいじょうぶ』は、認知症になった大好きなおばあちゃんを孫の視点で描いた作品です。この映画で、少しずつ認知症になっていく女性スズエを演じた冨士眞奈美さん、孫の翼を演じた寺田心くん、そしてジャッキー・ウー監督に映画、認知症と介護、そして人生について、お話を伺いました。

目次

物語

小学生の翼(寺田心)は、喜寿を迎えたばあばのスズエ(冨士眞奈美)と父(内田裕也)と母(松田陽子)と4人暮らし。翼は気が弱く、くじけそうになるとばあばのところへ行ってなぐさめてもらいます。ばあばに「大丈夫だよ」と言ってもらえると心からホッとするからです。でも最近、大好きなばあばの様子がおかしい……。何度も同じことを聞いてきたり、編み物ができなくなったり。変わってゆくばあばに翼はとまどいを隠せませんでした。

「主演女優は冨士眞奈美さんしかいない!」と監督は決めていた

まずウー監督にお伺いしたいのですが、映画『ばあばは、だいじょうぶ』は、絵本の映画化(楠章子著・童心社刊)ですね。脚色するにあたって大変だったこと、大切にしたことはどのようなことでしょうか?

ジャッキー・ウー監督(以下、ウー監督)
脚色するにあたって、まず大変だったのは、原作は短い物語なので、それを約2時間の映画として成立させることです。脚色するときに登場人物個々のキャラクターが絵本以上に明確に出るように工夫しました。認知症とはいえ、すべての人が同じような症状ではなく、その人なりの認知症の表れがあるので、そこを大事にしましたね。クリエイティブな能力が問われる作業だったと思います。

冨士さんはこの作品の出演依頼があったとき、どう感じられたのでしょうか?

冨士眞奈美さん(以下、冨士)
私は怠け者で(笑)、毎日のんびり暮らしていたのですが、ある日、監督とプロデューサーの方と会う機会があり「この映画では、典型的な日本のおばあちゃんではなく、ハイカラで考え方もシャキシャキしたおばあちゃんのイメージでスズエさんを描きたい」というお話がありました。それを聞いて「おもしろそう」と心惹かれましたね。

ウー監督
私たちは「この役は冨士眞奈美さんしかいない!」と決めていたので、冨士さんだけにオファーしました。絵本を見ていただければわかるのですが、スズエさんはインテリジェンスでフレンドリーでハートフル。冨士さんそのものなのです。

翼役が決まったとき、泣いて喜んだ心くん

翼役の寺田心くんもピッタリのキャスティングでしたが、オーディションだったそうですね。心くんは役が決まったとき、どんな気持ちでしたか?

寺田心くん(以下、心)
オーディションではずっとドキドキしていました。決定のお電話が来たとき、僕は実のおばあちゃんの家にいて、ずっと「大丈夫かなあ、どうかなあ」とウロウロしていたんです。電話で「翼役が決まったよ」と聞いたときは、もうもう「ヤッター!」と飛び上がって、そのあと涙がポロポロ出てきて、母とおばあちゃんとたくさん喜びました。

ウー監督
心くんは即決でした。彼がオーディションの部屋に入ってきて、声を聞いたときに「翼役は、この子に決まりだ」と思いましたね。

冨士
心くんは偉いのよ。撮影で使った一軒家を見て、自分は大きくなったら、おばあちゃんにこういう大きな家を建ててあげたいとか、お母さんを幸せにしてあげたいとか言うんです。とても感心な子。だから「あなたはすでにプロの俳優さんだから、大人になったらきっと大きな家を建てられるわ」って言ったの(笑)

認知症になる1歩手前の心が泳ぐ状態を冨士さん熱演

冨士さんの役は認知症の過程を演じるという難しいものでしたが、演技プランはどのように立てていたのですか?

冨士
演技プランはないですね。でも、スズエが徐々に変わっていく様子を自然に演じるのは難しいと思いました。撮影は昨年の夏だったのですが、とても暑かったでしょう。だからまいってしまって、それがスズエの症状を表現するのによかったのかもしれません(笑)

ウー監督
いえいえ、素晴らしい演技でしたよ。普通の状態でもなく、完全に認知症の症状でもなく、その合間で心が泳いでいるような状態を描いたスズエさんの長いシーンがあるのですが、あれを演じられるのは冨士さんしかいないと思いました。微妙なニュアンスを理解していないとできない見事な演技です。

心くんは翼役、どうでしたか?演技について教えてください。


監督さんは秘密の台本を持っているんです。その台本のお芝居を監督さんから教えていただきました。そしたらお芝居がとっても楽しくなりました。

翼くんは、ばあばの認知症が進んでいく過程を見ていき、心配したり、不安になったりしますが、難しかったですか?


難しいというより、ばあばが本当にそうなっちゃったんじゃないかと思うくらい凄い演技だったのでビックリして「ばあば、変わっちゃった……」って思いながら演じていました。でも撮影の合間に、ばあばと一緒にお菓子を食べたりできて楽しかったです。

冨士
心くんはどこでも寝ちゃうんです。撮影合間に衣装が吊るしてある部屋で衣装の下で寝ていたことがあって驚きました(笑)。でも寝起きはとてもよくて、さっきまで寝ていたのに、起きるとすぐに俳優のスイッチがパチっと入るんです。本当にすごい子です。


ヤッタ!(笑)、よく寝起きはいいと言われるんです。

家族の葛藤と心の温かさを描きたかったという監督の思い

完成した映画を観た感想はいかがですか?

冨士
スズエさんがいろいろなことを忘れていったり、見た目も少し変わっていく姿は、見る人によっては辛いものかもしれません。でも、私は演じている自分を観て、自然と受け入れることができました。それはきっとスタッフもキャストもみんな家族みたいに仲が良く、現場が心地良かったからかもしれません。毎日、肩ひじ張らずに自由に伸び伸びと演じられましたから。楽しかった思い出のおかげで、自分が演じたスズエが変わっていく姿を見ても平気だったんだと思います。

心くんは、この映画を観て、認知症のことをどんな風に考えましたか?


今まで僕は家族と普通に接していて、これがずっと続くと思っていたけれど、僕のおばあちゃんも変わっていくのかもしれないなと考えました。だからもっともっと家族と楽しいことをしていきたいです。

この映画には、認知症とその家族の交流や介護問題についても描かれていますが、監督がこの映画を通して伝えたいことは?

ウー監督
実は、この映画は海外からのオファーに応える形で制作した映画なのです。僕が監督した前作『キセキの葉書』も認知症に関わる映画でしたが、認知症や介護に関して、ヨーロッパはオートメーション化されており「このクラスの認知症の方はこのような介護で」と機械的に振り分けられている印象があるのです。バリアフリーの施設はとてもいいのですが、どこか心が足りない感じがするのですね。
日本は介護において、家族が要介護になったけれど施設がなかなか見つからないなど遅れている一面がありますが、家族で面倒を見ることについて、さまざまな葛藤がありますよね。でもその葛藤こそが、心なのかもしれません。全部がシステム化していれば便利で助かりますが、もう一度、家族の葛藤や、それを乗り越えた先にある心の温かさを世界の方たちにも思い出してほしいと願いながら作りました。

冨士さんはこの映画に出演されて、認知症や介護について改めて考えたことはありますか?

冨士
この映画のスズエは幸せだと思います。家族に対する思いやりが問われている時代なのに、息子もお嫁さんも一生懸命つくしてくれるでしょう。小姑たちがお嫁さんにスズエを押し付けたりするけど、あれはあれでいいと思います。あまり干渉されても大変だもの。
でも自分のことがわからなくなるって、とても悲しい。不安な気持ちでいっぱいだと思います。ただ、スズエは周りが優しいし、こんなにかわいい孫がいる。孫の存在が、刺激になっていると思いますね。

認知症もそうでない人も、結局、人間はひとりで生きる

この映画をこれから見る人たちへメッセージをお願いします。


この映画を観てもらって「こういう方がいるんだよ」って知ってもらいたいし、そういう方を家族やみんなで助けられたらいいなと思いました。

ウー監督
認知症がとても身近なものになっていると思うので、特別でも変わっているわけでもなく、日常として捉えて観ていただきたいし、そういう世界を求めている人にこそ観てほしいですね。

冨士
老いは、誰にでも公平に訪れます。認知症になる人もいれば、ならない人もいる。じゃあ、認知症になったら不幸かというと、当人はそう感じてない場合もあると思います。食事ができて、好きな場所にいられれば幸せかもしれない。私としては、人に迷惑かかけたくないけれど、結局、最後は人間はひとりだと思うんです。この映画のスズエにはやさしい家族がいるけど、彼女もひとりで葛藤していたでしょう。結局人間はひとりだということも描かれていると思います。

監督はプロデューサー、俳優、歌手などさまざまな活動をされていますね。キネヅカの読者は50代以上も多く、定年退職後の人生の在り方などを考えている方も多いのですが、監督の人生の歩み方とは?

ウー監督
世の中に「いい人」がたくさんいると思います。例えば三面記事になるような事件が起こったとき、近所の人のコメントで「とてもいい人だったのに」というのを目にしますが、僕はそれがいつも疑問なのです。いい人って何だろう、いい人に見られようと自分を殺して無理をしていた人なのではないかと。僕はいい人ではなく、素直な人でいたいと思っています。自分で自分を認めて、素直に生きていきたい。人に認められるかどうかは別の話。僕は自分の通信簿は自分でつけて死んでいきたいと思っています。

ジャッキー・ウー監督
神奈川県出身、父が中国人の2世。1998年にフィリピンへ渡り、プロデューサーとして関わった映画『TOTAL AIKIDO』では主演も兼ね、その後、俳優として『少林キョンシー』『炎のランナー』など多数出演。2013年の制作&主演作『DEATH MARCH』より、ヨーロッパを拠点に活動。監督、俳優、プロデューサー、音楽家など多方面で活躍している。映画『ばあばは、だいじょうぶ』でミラノ国際映画祭最優秀監督賞を受賞。
冨士眞奈美(ふじ・まなみ/中前スズエ役)
静岡県出身。NHKテレビ専属女優として連続ドラマ「この瞳」でデビュー。1960年にフリーになり、ドラマ「細うで繁盛記」の小姑役でブレイクし、その後、映画、ドラマ界で活躍。
「俳壇賞」選考委員も務め、著書も多数ある。
寺田心(てらだ・こころ/中前翼役)
2008年生まれ。愛知県出身。3才から芸能活動を始め、TOTO「ネオレスト」のCMで注目を集める。その後、映画、ドラマ、バラエティなどで活躍。映画『L♡DK』『トワイライト ささらさや』『パパはわるものチャンピオン』など。映画『ばあばは、だいじょうぶ』でミラノ国際映画祭最優秀主演男優賞を受賞した。

映画『ばあばは、だいじょうぶ』

映画『ばあばは、だいじょうぶ』ポスター

公開日
2019年5月10日(金)公開

スタッフ・キャスト
監督:ジャッキー・ウー
原作:楠章子『ばあばは、だいじょうぶ』(童心社刊)
出演:冨士眞奈美、寺田心、平泉成、松田陽子、内田裕也、土屋貴子、久保寺淳、小暮智美、金内真弓、金島清史、真上沙剣、板倉佳司

© 2018 「ばあばは、だいじょうぶ」製作委員会. ALL RIGHT RESERVED.

取材・文=斎藤 香
写真=鳥羽 剛
写真提供=2018 「ばあばは、だいじょうぶ」製作委員会. ALL RIGHT RESERVED.

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