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「男=仕事!」ゴルゴ13とさいとう・たかをの50年! 川崎市市民ミュージアム「ゴルゴ13展」レポート

連載開始から半世紀。今も圧倒的な存在感を放ち続ける劇画『ゴルゴ13』の連載50周年を記念した特別展が神奈川・川崎市市民ミュージアムにて開催中です。
厳選された貴重な原画やこれまで門外不出だったプロダクション所蔵のモデルガンなど展示品の見どころをはじめ、作者のさいとう・たかを氏のインタビューを通して、常に世代を越えて新しいファンを惹きつけるゴルゴの魅力とは何か? に迫ります!

目次

テーマごとに解説・「ゴルゴ13展」の見どころはここ!

第1章「軌跡」

展示はテーマごとに5つのブースに分かれていて、第1章「軌跡」では、全エピソードの中から選ばれた「究極のゴルゴ」原画39点が解説付きで展示されています。

厳選された原画のほとんどが初公開のもの!

見どころは『ゴルゴ13』の記念すべき第1話『ビッグ・セイフ作戦』のカラー原稿!
窓辺に立つ半裸の男(もちろん白ブリーフ)、赤・青・赤と交互に男を照らすネオン、ズームインして男の顔アップ、と、映画のようなカット割りが今見ても相当クールでドラマチックです。

映画的カメラワークが斬新な連載第1話のカラー原稿

小説の書き出しなどにもよく言われますが、後世に残る名作の一回目というのはやはりそれだけの「予感」を持たせるものだというのがわかりますね。

また、珍しいものとしては第173話『沸騰』の扉絵があります。
これはリオのカーニバルの群衆図を背景にゴルゴの眼光アップのカット割りという構図なのですが、なぜか雑誌や単行本掲載時に背景が白地にされてしまい(原因は不明)、「完全版」は原画以外に存在しないという幻の扉絵です。こちらもぜひ注目してご覧ください。

第2章「狙撃」

ゴルゴ愛用銃のモデルガン12丁が展示

スナイパー(暗殺者)であるゴルゴが愛用する銃のモデルガンが紹介されています。

ひとつひとつに詳しい解説と、どの作品のどのシーンで使われていたかがパネルで紹介されていて臨場感がたっぷり。
さらにはゴルゴ愛用のライフル「アーマライトM16」の重量(なんと4kg!)までも忠実に再現したモデルガンを実際に持って体験&撮影することができます。

実際に構えてスコープを覗いてみよう!

持ち上げてみるとズッシリした重さに驚きます。標的も用意されているのでゴルゴになりきって構えてみましょう! (もちろん撃つことはできませんよ)

第3章「女性」

『ゴルゴ13』には特定のヒロインはいませんが、これまでの連載50年の中でゴルゴは数多くの女性たちと関係を結んでいます。

3章ではその中から厳選された女性100人が大型パネルで展示されているのですが、こうして並ぶとその数に圧倒されますね。
この中でゴルゴが唯一「愛情」を見せたのではないか? とファンの間で噂される人物が「エバ・クルーグマン」という女スナイパー(暗殺者)です。
エバがヒロインの作品『海へ向かうエバ』は、シリーズの中でも人気が高い作品のひとつになっています。

ここでは『海へ向かうエバ』の原画15枚とパネルがストーリーを追う形で展示されていて、原画込みで一話を丸ごと読めるようになっています。またとない機会なのでぜひご堪能ください。哀しくも美しい余韻の残るラストシーンは必見です!

第4章「制作」

こちらにはさいとう・プロダクションの一室とゴルゴの等身大フィギュア、さらにはさいとう・たかを氏の仕事机とプロダクション応接室が再現されたコーナーがあります。

銃を持ったゴルゴを背後に、座って記念撮影もOK!

さいとう・プロダクションは、漫画界で初めて脚本や構成、作画では人物と背景の担当を分けるなど、映画のように多くのスタッフで制作する「分業制」を導入したパイオニアとしても知られています。
分業制によってどのように一話分が作られているのか、そのワークフローを紹介したパネル展示があり『ゴルゴ13』制作の裏側を知ることができます。

他にもさいとう・たかを氏の劇画家としての歩みを記録した年表や、作品の資料などが展示されていますが、中でも見どころは銃を扱うポーズにリアリティを持たせるために集められたり作られたりしたモデルガンの数々です。
「武器庫」と呼ばれるさいとう・プロダクション所蔵のモデルガンはこれまで門外不出でした。これも必見です!

スタッフがあらゆる資料を参考に完成させたオンリーワンの銃・M16フルスクラッチ

第5章「人気」

『ゴルゴ13』の掲載誌「別冊ビッグコミック」「ビッグコミック増刊」(小学館)が全巻展示されています。全巻そろうのは本展が初めてです。

さらには過去にゴルゴとコラボレーションした省庁や企業のポスターや、舘ひろしさん、眞鍋かをりさんなどゴルゴファンの著名人からのメッセージも展示され、これまでにゴルゴがどれほど愛され、注目を集め、多くの人に支持されてきたかを感じ取ることが出来ます。

視聴コーナーではさいとう・たかを氏のインタビュー動画が放映されていますが、その中にさいとう氏がゴルゴの顔に目を入れるシーンがあります。
あの(小さな)目が入った瞬間にゴルゴの顔に魂が宿るのがよくわかりますので、ぜひその「変わる瞬間」をご覧になってください。

さいとう・たかを氏インタビュー

ゴルゴ13展の開催にあたり先に行われた開会式と内覧会にはさいとう・たかを氏も出席し、式典の後に囲み取材が行われました。

今年82歳になるというさいとう氏ですが、黒い帽子・黒いスーツに口ひげの紳士スタイルで登場しとてもダンディでした。ゴルゴはいつまでも歳を取りませんが、ゴルゴが80歳になったらまさにこのような姿かもしれませんね。

式典では50年も連載が続いたことについて

「奇跡のようです。ありがたいを通り越して人ごとのようにも思える。月日が経ったという感覚がなく、自分が82歳になるなんて、えっ? という感じがします。
もう作品は描き手のものから読者のものになっている。まずはお礼を言わなくてはなりません。50年間よく読んでいただきました。ありがとうございます。これからも生きている間、描ける間は頑張っていきたい。」

と挨拶したさいとう氏。囲み取材ではさらに多くの質問に答えてくれました。中でも特に印象的だった話をご紹介しましょう。

50年間続けられたそのモチベーションは何から生まれてくるのか?

さいとう・たかを氏
自分が「職人」だという意識です。米や野菜を作る人と同じように自分は職人で仕事として漫画を作っている。だから続けてこられたんでしょうね。
自分の感性で描ける人は「天才」です。しかし私は計算づくめでやっている。こういう人間は「職人」でしょう。

今回クローズアップされた作品『海へ向かうエバ』について

さいとう・たかを氏
エバの話は私が作りました。というのは脚本が遅れて間に合わなくなり急遽自分で作らなければならなくなったのです。私はセンチなものが好きなところがあるので「男と女の話」を描きました。
エバのラストシーンが印象的と言われていますがそれも計算です。デビューからこれまで一貫してどうやったら読者に受け入れてもらえるか、喜んでもらえるかを常に考えて描いています。

時代の常識を疑い自分自身の価値観を持つ

ゴルゴがこれまで多くの人に支持されたのはなぜだと思うか?

さいとう・たかを氏
私は敗戦後から出てきた人間ですから「その時代の常識」というものを信じていません。人間社会の常識や、正義とか悪とかの解釈はだいたい10年で変わります。その時代の感覚だけで描いていたらすぐに色あせてしまい50年も続けられなかったでしょう。時代に揺るがない私自身の価値観で描いてきたから、読者はそこに刺激を受け読まれてきたのではないでしょうか。

自分とゴルゴで似ているところはあるか?

さいとう・たかを氏
「はぐれもの」というところですね。
世の中の常識から見れば、ゴルゴの仕事(暗殺)は完全な社会悪です。しかしゴルゴには人間の命も蟻一匹の命も同じな所がある。人を殺したあとで、ふと踏みそうになった一匹の蟻の命を守るためにまたぐような人間かもしれない。
ゴルゴは世の中の常識とは別の自分自身の常識を持って生きている。

私は子どものころ、カエルをいじめて遊んでいたら、なんて残酷なことをするのだと親にひどく怒られたことがあります。でも自分たちは魚を刺して干物にして食べているではないか。それは残酷ではないのか? と疑問に思いました。
大人の考え方はおかしいと思うことばかりなので自分で考えるようになった。そうしているうちに自分の中に自分だけの正義や悪ができてきました。
しかし自分の常識と一般社会の常識というのは車の両輪と同じなので、両方のバランスを持って人は社会で生きていかなくてはなりません。ゴルゴは(漫画なので)そこを超越している、それが魅力でもあるのでしょう。

60年以上現役で仕事を続けているさいとう氏にとって「仕事」とはなにか?

さいとう・たかを氏
男にとって仕事とは男そのものです。動物の中で男(オス)がエサを運ぶのは人間だけです。そういう男を作り出したのは母親です。

だから仕事が男、男が仕事。仕事をすることで男は認められるのです。

仕事をしなかったら男はカスですよ。女は全部やれるんですもの。すべてのことで女のほうが勝ってる。男はエサ運びをやらせてもらえるから存在価値がある。それだけが男の値打ち。だから仕事をどう考えているかなんて禁句ですよ。「仕事=男」なんです。がんばりましょう(笑)

終始にこやかに、ゆっくりとした口調でひとつひとつの質問に丁寧に応えてくれたさいとう氏

 

世の中の常識や、なにが正義でなにが悪というのもだいたい10年経てば変ってしまう。世の中の常識に染まるだけではなく、自分の中に不変の常識や正義を持ち続けることが、時代が変わっても多くの人を惹きつける魅力の根源なのだというさいとう氏のメッセージに、とても大切なことを教わった気がしました。

仕事観への質問には、即答で「男=仕事」と答えられたのも印象的でした。50年の間に一度も休載することなく、80歳を超えた今でも連載を続けるさいとう氏らしい答えですね。
ゴルゴの最終回は連載が始まった時にできているとのことですが、それを読むのはまだまだ先になりそうです!

11月3日(土・祝)にはさいとう・たかを氏のサイン会が開かれます。詳しくは川崎市市民ミュージアムのホームページをご覧ください。

開催概要

  • 展覧会名:連載50周年記念特別展「さいとう・たかを ゴルゴ13」用件を聞こうか……
  • 会期:11月30日(金)まで
  • 休館日:毎週月曜(10月8日は開館し翌日休館)
  • 開館時間:9:30〜17:00(最終入場 16:30まで)
  • 会場:川崎市市民ミュージアム
  • 観覧料:一般1,200円(960円)、学生・65歳以上1,000円(800円)、中学生以下無料
    ※()内は 20名以上の団体料金。※障害者手帳をお持ちの方およびその介護者は無料。
  • ホームページ:連載50周年記念特別展「さいとう・たかを ゴルゴ13」用件を聞こうか……

川崎市市民ミュージアム

住所
〒211-0052
神奈川県川崎市中原区等々力1-2(等々力緑地内)

文=大関留美子
写真=納谷陽平

※掲載の内容は、記事公開時点のものです。情報に誤りがあればご報告ください。
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