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川崎市市民ミュージアム「かこさとしのひみつ展」|展覧会レポート

『からすのパンやさん』や『だるまちゃんとてんぐちゃん』でお馴染みの絵本作家、かこさとしさんの展覧会が川崎市市民ミュージアムで開催中です。「絵本作りの原点は川崎です」と語るほど、戦後に参加した川崎市のセツルメント活動の経験が自身の糧になっていたというかこさとしさん。惜しくも本展準備中の今年5月2日に92歳で逝去されましたが、同展に展示されている200点を超える作品のスケッチや複製原画、そしてかこさんの言葉は、今を生きる私たちに「生きること」の楽しさを教えてくれます。

目次

かこさんの魅力を、だるまちゃんとさがしにいこう!

展覧会は大きく分けて、「かこさとしができるまで」、「かこさとしのひみつ」、「かこさとしから未来のだるまちゃんへ」の3部構成になっています。子どもも大人も楽しめるよう、そこかしこにだるまちゃんの装飾が施してあり、だるまちゃんと一緒にかこさんのひみつに迫ることができます。

会場で出迎えてくれた「だるまちゃん」のオブジェ。お腹にヨシタケシンスケさんと鈴木のりたけさんのサインが!

1.かこさとしができるまで

はじめの展示では、かこさんの幼少期から絵本作家になるまでの写真や作品を見ることができます。 小学生時代に、自身で「絵が劇的にうまくなった」という日の絵日記も展示されており、当時からセンスを感じさせる絵やイラストには舌を巻いてしまいます。

かこさんの幼少期〜大学生、社会人になっての写真や絵日記がずらりと並んでいます。

絵の才能があったかこさんでしたが、中学生時代は飛行機が好きだったことから軍人を目指していたそうです。しかし目が悪かったことを理由にその道を断たれてしまい、ものづくりの分野へ進学、その後大学生時代に敗戦を経験。戦争が終わった途端に大人たちの価値観が一気に覆ったのを見て呆れてしまい、さらに友人たちが皆死んでいくこととなった戦争に自分自身も加担しようとしていたことへの後悔心があり、「これからは未来のある子どもたちのために何かしたい」という思いを抱いたといいます。その後社会人となり、川崎セツルメントの活動に参加するのですが、その時に自身のつくった紙芝居などを子どもたちに読み聞かせたことが、絵本作家としての原点となりました。「大切なことはすべて子どもたちが教えてくれた」と語っています。

当時、セツルメントの子どもたちが描いた作品も展示。ずっと大切に保管されていたそうです。
絵本作家デビューのきっかけとなった作品『わっしょいわっしょいのおどり』も展示されています。(写真中央)
書斎の写真や一部私物、ラフスケッチの展示も。セツルメント活動を振り返る映像資料(放映時間20分)も見ごたえがあります。

2.かこさとしのひみつ

学芸員さんが見出したかこさんの4つのテーマ「見る」「知る」「学ぶ」「食べる」場面を様々な作品の中から集めて展示してあります。「見る」はたくさんの人や物が描かれた場面を集めた展示。見つける楽しみがあります。「知る」では様々なものの断面図が展示されており、小さな果物から大きな地下鉄や建物まで、そのものが「見えないところでどう構成されているのか」を見せてくれます。「学ぶ」ではものづくりや人間の成長を順を追って学ぶことができ、「食べる」は「食」を通して日本の行事やその土地ならではの名物を教えてくれます。
また、40年ぶりに展開された『からすのパンやさん』の続編の複製原画も展示されており、かつてパンやさんの子どもだった4兄弟の活躍を見ることもできます。

テーマごと、各区画に分けられて展示されています。
「食べる」には、美味しそうなページがずらり。目が釘付けになる子どもも多いそう。
『だるまちゃんとかみなりちゃん』に登場するけんけんぱも!(遊ぶのはお子様限定)

3.かこさとしから未来のだるまちゃんへ

最後の展示では、2018年1月に東北や沖縄を応援する想いを込めて出版したという、「だるまちゃん」シリーズの最新作3作品を展示。だるまちゃんシリーズについて、学芸員の永藤さんは「困ったことが起きても、だるまちゃんがお友達と一緒にそれを解決するというところに『勇気』を感じます」と解説してくださいました。

「だるまちゃん」シリーズ最新作。90歳を過ぎたかこさんが、想いを込めて描きあげた。
『出発進行! 里山トロッコ列車』では、地層の断面図やその地域の自然や食べ物が描かれており、これまでの「総合的にものを見る」スタイルが一貫されている。

2014年に発表された著書『未来のだるまちゃんへ』は、実は、かこさんにとっては遺言に近い想いがあったという。その中でかこさんは作品にこめてきた想いをこのように語っています。

この世界はどんなふうに出来ているのか、そして人々はそこでどうやって生きているのか。その理解を手助けするために、先に生まれて、失敗などしてきた先駆者として僕なりにまとめた見取り図を手渡してやること。それこそが、僕が絵本を通して、子どもたちに伝えたいと思ってきたことでもあるのです。

生涯を通して、「自分の頭で考えて、たくましく生きて欲しい。生きることを面白がって欲しい。」というメッセージを送り続けたかこさとしさん。未来のだるまちゃんこと子どもたちのために、かこさんが残した「ひみつ」をのぞいてみませんか?

かこさんへメッセージを送ろう!

会期中入場自由で、かこさんへ感謝の気持ちを伝えられるコーナー「いつまでも いつまでも かこさとしさん」が設けられています。メッセージを書けるだけでなく、2017年に撮影された記録映像(10分程度)も鑑賞できます。

集められたメッセージは「加古総合研究所」に届けられます。
子どもからお年寄りまで、あたたかいお礼のメッセージがぎっしり詰まっています。

充実の物販コーナーも

絵本や雑誌などの書籍をはじめ、パズル、クリアファイルなどのグッズも販売。
『からすのパンやさん』や『どろぼうがっこう』のTシャツはサイズ豊富なので、親子でおそろいにしても◎

「かこさとしのひみつ展-だるまちゃんとさがしにいこう-」概要

  • 展覧会名:「かこさとしのひみつ展 -だるまちゃんとさがしにいこう-」
  • 会期:9月9日(日)まで
  • 休館日:毎週月曜日
  • 開館時間:9:30〜17:00(最終入館 16:30まで)
    ※夏休み期間の土曜日(8月11日・18日)は19:00まで開館(最終入館18:30まで)
  • 会場:川崎市市民ミュージアム 企画展示室1
  • 観覧料:一般600円(480円)、65歳以上・大学生・高校生450円(360円)、中学生以下無料
    ※()内は 20名以上の団体料金。※障害者手帳をお持ちの方およびその介護者は無料。

かこさとしのひみつ展-だるまちゃんとさがしにいこう- 川崎市市民ミュージアム

住所
〒211-0052
神奈川県川崎市中原区等々力1-2(等々力緑地内)

文、写真=キネヅカ編集部

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